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第207話
黄金の角のトナカイ
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むかしむかし、おじいさんが泥土をこねて、大きな人形をつくりました。
「よしよし、我ながら良い出来だ」
とても上手に出来たので、おじいさんは泥人形を窓の外に置くと、うれしそうにおばあさんに言いました。
「おばあさんや、どうだい? わしが作った泥人形だよ」
「へえ、おじいさんが人形をねえ」
そう言って、窓の外をのぞいたおばあさんはびっくりです。
なんと泥人形が、ごそごそと動き始めたのです。
「おじいさん。何て物を作ったんですか! このままではわたしたち、殺されてしまいますよ!」
そう言っている間に、
ドシン! ドシン!
と、泥人形の足音が近づいてきました。
そして泥人形が、戸を開けて家の中に入ってきたのです。
「これは大変だ! 何とか捕まえないと!」
そこでおじいさんは泥人形を捕まえようと、部屋のすみで魚を捕まえるアミをかまえました。
そのそばでは、おばあさんがブルブルと震えています。
部屋に入ってきた泥人形は、おじいさんとおばあさんの方を見ると、二人を魚のアミごと大きな手で捕まえて、大きな口を開けるとパクリと飲み込んでしまいました。
そして泥人形は、外に出ていきました。
外の通りには、二人の娘が歩いていました。
一人はおけを持ち、もう一人は、てんびん棒を持っていました。
泥人形はいきなり二人をつかむと、おけもてんびん棒も一緒に、二人を丸のみにしてしまいました。
アミを持ったおじいさんとおばあさんと、それから、おけとてんびん棒を持った二人の娘を飲み込んだ泥人形は、また、通りを歩いていきました。
次に向こうから、三人のおばあさんがイチゴのカゴを持ってやってきました。
ドロ人形は三人のおばあさんを、イチゴのカゴと一緒に飲み込みました。
そしてまた、ドンドン歩いていきました。
すると三人の漁師が集まって、船を修理していました。
泥人形は三人の漁師を、船と一緒に飲み込みました。
たくさん飲み込んだので、泥人形のお腹はものすごく大きくなりましたが、それでも平気でドンドン歩いていきました。
今度は三人のきこりが、たきぎを切っていました。
泥人形は、オノと一緒にきこりたちを飲み込みました。
こうして、魚アミを持ったおじいさんと、おばあさんと、おけと、てんびん棒を持った二人の娘と、イチゴのカゴを持った三人のおばあさんと、三人の漁師と船と、それからオノを持った、三人のきこりを飲み込んだので、泥人形のお腹は山のようにふくれあがりました。
それでも構わず、泥人形がドンドン歩いていくと、目の前に山がありました。
山の上では、トナカイが草を食べています。
泥人形は、トナカイにむかってどなりました。
「お前も、食べてやるぞ!」
するとトナカイが、山の上から答えました。
「泥人形さん。わざわざここまで登ってくるのは大変でしょう。ですから、山の下で大きな口を開けて待っていてください。わたしはまっすぐにかけおりていって、あなたの口の中に飛び込んであげますから」
「そりゃあ、いい考えだ」
泥人形は喜ぶと、山のふもとで大きな口を開けて、トナカイが飛び込んで来るのを待っていました。
するとトナカイは山の上からまっすぐにかけおりて来て、泥人形の口ではなくお腹めがけて、
ブスリ!
と、自慢の角(つの)を突き刺したのです。
するとドロ人形のお腹が、
パーン!
と、風船のように破裂しました。
それと同時に、お腹の中からドロ人形に飲まれていた人たちが飛び出してきたのです。
おじいさんとおばあさんは、魚アミをひきずって帰りました。
二人の娘たちは、てんびん棒でおけをかついで帰りました。
三人のおばあさんは、イチゴのカゴをさげて帰りました。
三人の漁師は、船をこいで帰りました。
三人のきこりは、オノをかついで帰りました。
みんなのあとから、トナカイはついて行きました。
助かった人たちや他の村人たちは、トナカイのために黄金を持ってきました。
そしてその黄金で、トナカイの角をきれいに包みました。
その時からトナカイは、黄金の角のトナカイと呼ばれるようになったのです。
おしまい
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