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第229話
テキシンとされこうべ
中国の昔話 → 中国の情報
むかしむかし、中国のある国に、テキシンという弓の名人がいました。
テキシンの弓の腕前は大したもので、空を飛んでいる鳥を、一発の矢で三羽も串刺しにしてしまうのです。
そのお陰で『弓の名人テキシン』の名前は、他の国々にも知れ渡っていました。
さて、ある秋の日の事。
テキシンは自慢の弓を持って、弟子たちと一緒に山へ狩りに出かけました。
ところが山を歩き回っているうちに、テキシンは弟子たちと離れて、一人きりになってしまいました。
でもテキシンは一人で、ずんずんと山奥へ入って行きます。
やがて日が暮れて、山は急に暗くなっていきました。
テキシンは今日の獲物の中から、野ウサギとカモを何匹かなわでしばって肩にかけました。
「今日は、多くの獲物が捕れたな。しかも、全てをたった一発で仕留めたんだからな」
上機嫌でそう言ったとき、突然、どこかで大きな声がしました。
「ワッハッハッハッ。ずいぶん得意そうだな。だが、鳥やけものぐらい、子どもだって仕留められるぞ」
テキシンはすぐに弓矢をかまえると、声の主に向かって叫びました。
「だれだ! 姿を見せろ!」
けれど、いくらあたりを見回しても、人の姿はどこにも見えません。
「さては化け物だな? 正体を現せ!」
すると、向こうの草むらがザワザワとゆれて、長い髪の毛を付けたされこうべ(→ガイコツの頭)が転がり出て来ました。
されこうべは白い歯をむき出して、馬鹿にしたような笑い声を立てます。
テキシンは、顔をまっ赤にしてどなりました。
「化け物の分際で、無礼な! わしの矢を食らえ!」
テキシンは弓に矢をつがえると、されこうべに向けて放ちました。
するとされこうべは、風を切って飛んできた矢をパッとよけると、また笑い出しました。
「ワッハッハッハッ。おもしろい。そんな物で倒せるなら倒してみろ! 相手になってやるぞ」
「なにを、こしゃくな!」
テキシンは、すぐに次の矢を放ちました。
「よし、今度こそ命中だ!」
と、思ったとたん、されこうべは飛んできた矢を髪の毛で地面にたたき落としてしまいました。
「ようし。これならどうだ」
ピューッ、
ピューッ、
ピューッ、
テキシンは三本の矢を、目にもとまらぬ早さで放ちました。
しかしされこうべは、それを簡単にかわしながら、不気味な笑い声を響かせました。
「ワッハッハッハッ。どうだ、残った矢は一本だけだぞ」
テキシンは最後の矢をかまえながら、されこうべに、じりじりと近づいて行きました。
「お前は、一体何者だ!」
「おれは、されこうべだ」
「名前を名乗れ!」
「ワッハッハッハッ。されこうべに、名前なんてあるものか」
その言葉が終わらないうちに、テキシンの手から最後の矢が飛び出しました。
しかしされこうべは、風を切って飛んできた矢を髪の毛でつかみ取ると、テキシンめがけて投げ返しました。
ヒューーッ、グサリ!
飛んで来た矢はテキシンの心臓に突き刺さり、テキシンはその場に倒れました。
さて、次の日になってもテキシンが家に戻ってこないので、心配になった弟子たちは、みんなでテキシンを探しに出かけました。
そして山の中を探し回っているうちに、弟子たちはテキシンの死体を見つけました。
胸には深く矢が突き刺さっており、恐ろしい事に首から上が無くなっているのです。
「これは一体、だれのしわざだ?」
家来たちが、顔を見合わせたその時、
「ワッハッハッハッ!」
と、突然、空で大きな笑い声がおこりました。
空を見上げた家来たちは、思わず驚きの声を上げました。
空には、二つのされこうべが飛んでいたのです。
一つのされこうべが長い髪の毛で、もう一つのされこうべを引っ張っていきます。
よく見ると、引っ張られているされこうべはテキシンの顔で、まだ生きているのか、苦しそうな表情で弟子たちに何かをうったえようとしていました。
「ああっ、先生!」
弟子たちには、どうする事も出来ません。
やがて二つのされこうべは空のかなたへと消えていき、二度と姿を現さなかったそうです。
おしまい
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