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第230話
七人の親父様
ノルウェーの昔話 → ノルウェーの情報
むかしむかし、一人の旅人が、夕暮れになったので泊まるところを探していました。
「どこかに、泊めてもらえるところはないだろうか?」
ふと見ると、道の向こうに立派な百姓家がありました。
「立派な屋敷だ。まるでお城だな。ここなら、ゆっくり休ませてくれるだろう」
そう考えた旅人は、木戸を通って庭に入って行きました。
すると庭のかたすみで、白いひげを生やしたおじいさんが、巻き割りをしていました。
旅人は、さっそく声をかけました。
「こんばんは、親父さま。わたしは旅の者ですが、今晩泊めていただけませんか?」
するとおじいさんは、巻き割りの手を休めて言いました。
「わしは、この家の親父ではない。泊まりたいのなら台所へ行って、わしの親父どのに話してごらん」
そこで旅人は言われた通り、台所に入って行きました。
台所には、もっと年をとったおじいさんがいました。
おじいさんは、かまどの前にしゃがんで、ふうふうと火を吹いていました。
「こんばんは、親父さま。わたしは旅の者ですが、今晩泊めていただけませんか?」
すると、そのおじいさんは、
「わしは、この家の親父ではない。この部屋の奥へ行って、わしの親父どのに話してごらん。親父どのは、食堂のテーブルについているよ」
と、言いました。
そこで旅人が食堂に行ってみると、テーブルの前には、さっきの二人よりもずっと年寄りのおじいさんが座っていました。
おじいさんはブルブルと体を震わせて、カチカチと歯をならしながら、子どもが見るような大きな本を広げて読んでいました。
「こんばんは、親父さま。わたしは旅の者ですが、今晩泊めていただけませんか?」
「わしは、この家の親父ではない。奥で椅子に腰掛けているわしの親父どのに、話してみるがいいだろう」
と、おじいさんは歯をならしながら言いました。
そこで旅人が奥の部屋に入って行くと、ゆったりした肘掛け椅子に腰をかけている人がいました。
その人は、手に持ったパイプを一心に吸おうとしていましたが、手が震えているので、パイプを握ってはいられません。
「こんばんは、親父さま。わたしは旅の者ですが、今晩泊めていただけませんか?」
「わしは、この家の親父ではない。だが、もっと奥の部屋のベッドに、わしの親父どのが寝ている。そこへ行って話してみるがよかろう」
と、そのおじいさんが言いました。
旅人がベッドに近づいてみると、大きく開いた目が動いているので、やっと生きている事がわかる、それはそれは年寄りのおじいさんが寝ていました。
「こんばんは、親父さま。わたしは旅の者ですが、今晩泊めていただけませんか?」
「わしは、この家の親父ではない。だが、奥のゆりかごに、わしの親父どのが寝ている。そこへ行って話してみなさい」
旅人が、また一つ奥の部屋のゆりかごのそばに行ってみると、その中には、赤ん坊のように縮まって、くしゃくしゃになった大変な年寄りが寝ていました。
時々、呼吸で胸が動くので、ようやく生きているとわかるほどでした。
「こんばんは、親父さま。今晩泊めていただけませんか?」
「・・・・・・」
「あの、・・・こんばんは?」
聞こえているのかいないのか、おじいさんは何にも言いません。
でもしばらくたって、やっと返事がかえってきました。
「それなら、わしの親父どのに話してみることじゃ。親父どのは、天井からぶら下がっている水牛の角の中にいるはず」
そこで旅人は、天井を見上げて、上から吊るされた大きな水牛の角を見つけました。
「本当に、この中に人がいるのかな?」
旅人は、首をかしげながらも角の中をのぞきこみました。
すると中には、何かうす黒い物があります。
よく見ると、それは小さな人の顔でした。
びっくりした旅人は、思わず大声を上げました。
「こんばんは! 親父さま。今晩泊めていただきたいのです!」
すると中の小さな人の顔は、ネズミのようなかすかな声で、こう言いました。
「よろしい!」
それからテーブルには、山の様なごちそうや、お酒が、次々と運ばれてきました。
旅人はお腹がいっぱいなると、あたたかいトナカイの毛皮のふとんをかけてもらって、やわらかいベッドにもぐりこみました。
「やれやれ、ようやくこの家の本当の親父どのに会えた。こんなに、ありがたいことはない」
喜んだ旅人は、ゆっくりと眠ったそうです。
おしまい
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