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第234話

チーズの行方

チーズの行方
イギリスの昔話 → イギリスの国情報

 むかしむかし、イギリスのゴタムという村に、少し変わった人たちが済んでいました。
 ある日の事、ゴタム村の一人の男が、隣の町へチーズを売りに行きました。
 男が丘の上へ来た時、袋の中のチーズが一つ転がり出て、そのままコロコロコロコロと、逆の下へと転がって行きました。
「あっ、こら。止まれ!」
 男は怒鳴りましたが、もちろんチーズは止まらないで転がって行きます。
「ふむふむ、それにしても、なかなか上手に転がって行くなあ」
 男は感心して、こう思いました。
「あれならきっと、わしよりも早く一人で町の市場まで転がって行くだろう。・・・そうだ、他のチーズたちも一緒に、先に市場へ行かせよう」
 そして男は持っていた袋の中のチーズを、全部坂道へ転がしました。
 するとチーズはコロコロコロコロと、道ばたのやぶの中へ転がり込んで見えなくなりました。
 荷物がなくなって身軽になった男は、てくてく歩いて町の市場へやって来ました。
 ところがそこには、チーズはまだ一つも来ていません。
「おかしいな。少し、遅れて来るのだろうか?」
 男は市場のイスに腰をかけて、チーズが来るのを待っていました。
 でも、いくら待っても、チーズはやって来ません。
 そのうちに市場の終わる時間になったので、男は周りの人たちに尋ねてみました。
「あの、わしのチーズがここへやって来る事になってるんだが、誰か見かけなかったかね?」
「さあ? 知らないねえ。ところでそのチーズは、誰が持って来るんだい?」
「いや、誰かではなく、チーズは自分でやって来るんだよ。
 逆をコロコロコロコロ、うまく転がってね。
 だが、どこかで道草(みちくさ)をくっているんだろうか?
 それとも、あんまり早く走ったからこの市場を走り抜けて、次の町まで行ってしまったのかな?
 そうだ、きっとそうに違いない」
 男はさっそくウマを借りると、次の町までチーズを追いかけて行きました。
 しかし次の町でも、チーズの姿はありませんでした。
 チーズは今も、行方不明(ゆくえふめい)のままだそうです。

おしまい

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