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第242話
サルのきも
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むかしむかし、大きな川の中に、ワニの夫婦が住んでいました。
ある日の事、ワニの奥さんは病気で体を悪くして、食べ物がのどを通りません。
ワニの旦那が、心配して尋ねました。
「何か、食べたい物はないかね? 何でも探して来てやるよ」
するとワニの奥さんは、こう言いました。
「それなら一つだけ、食べたい物があります。それは、サルの生きぎもです。うわさによればサルの生きぎもは、どんな病気でも治す力があるとか。それを食べれば、きっと病気が良くなと思いますわ」
「わかった。何とかしよう」
さて、ワニが住んでいる川の向こう岸は、サル山でした。
たくさんのサルが木登りをしたり、枝にぶら下がったりして遊んでいました。
ワニの旦那は向こう岸へ泳いで行って、ひなたぼっこをしている様なふりをしました。
そして、サルに話しかけました。
「サルさん。川のあっち側に行ってごらん。木の実がたくさんあるよ」
「ふーん。でも木の実なら、こっち側にもあるよ」
「でも川のあっち側には、バナナやマンゴーもたくさんあるよ」
「バナナやマンゴーか。それはこっち側にはないな。だけど、あっち側へはどうやって渡るんだい?」
「それなら、ぼくの背中に乗りなよ。すぐ渡してあげるから」
ワニはこう言って、背中をサルの方に向けました。
「それはありがたい。では遠慮なしに」
こうしてサルが背中に飛び乗ると、ワニは川を泳いで水の一番深いところへ連れて行きました。
そして背中のサルに、申し訳なさそうに言いました。
「ごめんサルさん。悪いけどきみには死んでもらうよ。実は家内が病気なんだ。サルの生きぎもを食べたら、治るというものだから」
これを聞いてサルはビックリしましたが、ある作戦を思いつくと落ち着いた口調で言いました。
「何だ、それならそうと早く言ってくれればいいのに。実は今、きもを持って来ていないんだ。何しろあれは重いからね。普段は木の枝に引っかけておくか、ほら穴にしまっておくんだよ」
それからサルは、ちょっと考えるふりをして言いました。
「生きぎもが欲しいのなら、もう一度岸に戻ってくれないか? ついで余っている生きぎもを、二つか三つ取って来てあげるよ」
ワニはこれを聞いて、サルを元の岸辺に送り届けてやりました。
ワニの背中から降りたサルは、やがてイチジクの実を二つ持って来て言いました。
「ワニさん。これがサルの生きぎもだよ。早く持って帰って、奥さんに食べさせてやりなさいよ」
「これがうわさのサルの生きぎもか。ありがとう」
ワニの旦那は喜んで、そのイチジクを持って家へ帰りました。
「お前、ほら、サルの生きぎもだよ」
「まあ、始めて見るけれど、これがうわさのサルの生きぎもなのね。本当に、とってもおいしそうだわ」
奥さんはさっそく、イチジクをペロリと食べました。
すると病気は、うその様に治ってしまったという事です。
おしまい
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