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第243話
菊の妖精
中国の昔話 → 中国の情報
むかしむかし、中国に、馬子才(ばしさい)と言う人がいました。
子才(しさい)は菊の花が大好きで、菊の苗を育てては上手に花を咲かせます。
また珍しい菊があると聞くと、どんな遠い所へでも出かけて行って買って来ました。
子才が菊の苗を買いに旅へ出て、買い物をすませた帰り道での事です。
とても上品な若い男がロバに乗って、ほろ馬車の後について行くのに出会いました。
「あの、どこまで行くのですか?」
子才が尋ねると、若い男は菊の花の様にニッコリ微笑んで答えました。
「はい。わたしは姉と一緒に、引っ越しをしようとしているのです」
こうして子才と若い男は、道連れになりました。
そして色々と話をしているうちに、この若い男が子才に負けないくらい、菊の事を詳しく知っているのがわかりました。
子才は、うれしくてなりません。
「どうでしょう。引っ越しをなさるのなら、わたしの家に来ませんか? 庭のはずれに空いている家があります。小さな家ですが、菊を育てるには良いところですよ」
「それはありがたい話です。では、姉にも聞いてみます」
若い男は、ほろ馬車の中にいるお姉さんと相談を始めました。
その時、隙間から見えたお姉さんの姿を見て子才は驚きました。
その美しさは、まるで絵に描いた天女の様です。
やがて話が決まって、若い男とそのお姉さんは子才の家の庭のはずれに住む事になりました。
若い男の名は陶(とう)といい、お姉さんの名は黄英(こうえい)と言います。
子才は陶の才能を見込んで、家の菊作りを手伝ってもらいました。
そしてお姉さんの黄英には、料理や裁縫などの家事をしてもらいました。
陶は子才が感心するほど、よく菊の世話をして、子才の家の畑で枯れてしまった菊があると、それをもらって自分の家のそばに植えました。
やがて、秋になりました。
陶のおかげで子才の家の畑の菊は、今までになく美しく咲きました。
また陶は持って帰った枯れた菊を見事に生き返らせて、とても見事な花を咲かせました。
「枯れてしまった菊から、よくこんなに素晴らしい花を咲かせたものだ」
子才がほめると、陶は言いました。
「はい。わたしたち兄弟は、あなたにお世話になっているばかりで、本当に申し訳がありません。そこでこの菊を売って、少しでも自分たちの暮らしに役立てようと思うのです」
それを聞いて、子才は顔をくもらせました。
「お世話になっているのはわたしの方だ。菊作りを手伝ってもらっているし、お姉さんには家事もしてもらっている。・・・それに、花を売ってお金をもうけるなんて、本当に花を可愛がる人のする事ではないよ」
でも陶の家へは、花を買う人が毎日来る様になりました。
花を買った人たちは、美しい花に大喜びです。
(まあ、喜んでくれているならいいか)
子才も花を売る事に、何もいわなくなりました。
それから一年が過ぎました。
出会った時から陶のお姉さんが好きだった子才は、お姉さんを自分の奥さんにしました。
そこで陶一人だけが、庭の小さな家に住むようになりました。
「・・・姉さん」
お姉さんと別れた陶は、その日からたくさんのお酒を飲む様になりました。
一人になって、寂しかったに違いありません。
ある日の事、お酒を飲み過ぎた陶は、酔い潰れて庭先で寝てしまいました。
するとその体が、みるみるうちに菊になってしまったのです。
「あっ!」
それを見た姉さんも小さな悲鳴をあげると、同じ様に菊になってしまったのです。
実はこの兄弟は人間にあこがれた菊の妖精で、今まで人間に姿を変えていたのでした。
おしまい
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