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百物語 第十六話
めいどからかえってきたおくさん
むかしむかし、一人のお坊さんが、旅から旅の毎日をすごしていました。
ある日のこと、お坊さんがさみしい一本道を歩いていくと、日がくれてきました。
「このままいけば、町があるはずだから、こんやは町でとまることにしよう」
お坊さんは道ばたのお墓のところで、一休みすることにしました。
草むらに腰を下ろして、足を休めていると、後ろの方から、ギギギーッと、変な物音がします。
ふりむくと、かんおけのふたをおしあけて、白いきものの女の人がでてきました。
「ゆ、ゆうれい。なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ・・・」
お坊さんはじゅずをならして、ねんぶつをとなえました。
すると女の人は、お坊さんにちかづいてきて、
「どうか、たすけてください。からだがあつくてたまりません」
と、頭をさげました。
お坊さんは、あいてがゆうれいだとおもっているので、
「まよわず、じょうぶつなさい。なむあみだぶつ、なむあみだぶつ・・・」
さらに、ねんぶつをとなえました。
ところが女の人は、
「わたしはまだ、ゆうれいではありません。じつはきのう、いったん、いきをひきとったので、このおはかにうめられました。わたしのたましいはからだからぬけだして、ひろい野原のようなところをあるいていったのです」
と、ふしぎな話をはじめました。
「あてもなく歩いていると、おそろしい鬼たちが現れ、わたしをつかまえて、えんま(→詳細)さまのところへ連れていきました。えんまさまは、わたしをジロジロとながめて、『おまえはまだ、ここにくるのははやい。おまえの寿命は、まだまだのこっておる』と、いったのです。それから、わたしをつれてきた鬼たちに、『すぐに、火の車に乗せて、送り返せ』と、いいつけました」
「ほう、それで、からだがあついと言われたのですね」
「はい。火の車の炎につつまれて、『あつい、あつい』ともがいているうちに、ここに戻ってきたのです」
「なるほど。それで、かんおけをやぶって、ふたたび、この世にもどったというわけじゃな」
「はい。どうか、わたしを家につれていってください」
「わかった、わかった」
お坊さんは女の人をおんぶして、道をあんないさせました。
女の人の家は、町のなかの大きなお店でしたが、お店は戸をしめきって、かなしみにしずんでいました。
そこに、たびのお坊さんが、おそうしきをすませたばかりのおくさんをつれてきたので、ビックリ。
はじめはあやしまれましたが、
「こんなありがたいことが、またとあろうか」
と、お店の人たちはよろこんで、さっそく、おいわいのせきがつくられました。
おしまい