福娘童話集 > 東日本巨大地震復興企画「がんばれ まけるな」
養老の滝
養老の滝
むかしむかし、美濃の国(みののくに→岐阜県)の山里に、たいへん親孝行(おやこうこう)な若者がいました。
貧乏で毎日の食べる物にも不自由する暮らしでしたが、年取った父親のために一生懸命働いて、少しでも長生きをしてもらおうと思っていました。
その父親は何よりもお酒が好きでしたが、しかし米を買うお金さえろくにかせげないので、お酒などめったに手に入れる事は出来ません。
それでも息子は父親がお酒を飲むときの幸せそうな様子を思い浮かべると、なんとかしてあげたいと奥山にわけ入って、たきぎを取るのでした。
そんなある日、若者は岩から足をふみはずして、あっと言う間に谷底へ転がり落ちてしまいました。
気を失ってしばらくすると、のどがかわいて目を覚ましました。
「ああ、水が飲みたい」
体を起こしてあたりを見ると、岩かげから水の音が聞こえてきます。
「ありがたい。川があるようだ」
若者がかけよると、そこには見上げるばかりの滝が、しぶきを立てて流れ落ちていたのです。
若者は足元に泡立つ水を手にすくって、口にふくみました。
「むむっ。これは!」
何とそれはただの水ではなく、これまで飲んだ事もないような、かぐわしいお酒だったのです。
「ああ、ありがたい事だ。これを持ち帰れば、おとうがどんなに喜ぶ事か」
若者は腰にさげたひょうたんにお酒をくみとると、急いで家に帰りました。
「遅かったな。お前の身の上に何かあったかと、心配しとったよ」
息子はニコニコしながらうなづくと、ひょうたんのお酒を父親に差し出しました。
「なんだこれは、水か? ・・・うむ! これはうまい!」
一口飲んだ父親は、目を丸くしました。
「こんなにかぐわしい酒を、わしはこれまで飲んだ事がないぞ。いったい、どこで手に入れたんじゃ」
息子は山奥で起きた不思議な出来事を話して聞かせると、父親は言いました。
「それは、お前がいつも親孝行をしてくれるので、神さまがごほうびにくださったのだよ」
この話は間もなく、奈良の都の天皇(てんのう)の耳に伝わりました。
天皇はたいそう感心すると、若者に山ほどのほうびをくださり、そればかりか年号を「養老(ようろう 717年11月17日に改元)」とあらため、滝に「養老の滝」という名をさずけたという事です。
おしまい
※ メッセージ。
被災された皆さまへ。
大震災の被害を受けられた皆さまに、つつしんでお見舞い申し上げます。
また、いっこくも早く復興されますよう、心からお祈り申し上げます。
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