2月18日の日本の昔話
かめかつぎ
吉四六(きっちょむ)さん
むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
あるお正月の事です。
町へ行った吉四六さんは瀬戸物屋へ立ち寄って、十枚ひと組の皿を五十文で買って来ました。
ところが家に戻って数えてみると、十枚あるはずが九枚しかありません。
瀬戸物屋の主人の重兵衛(じゅうべえ)が、数え間違えたのでしょう。
重兵衛はへそ曲がりで有名でしたが、吉四六さんとは顔見知りだったので、二、三日たって町へ行ったついでに店に立ち寄り、
「重兵衛さん、この間買った、十枚ひと組の皿の事だが、家に戻って数えてみたら一枚少なかったよ」
と、言いました。
ところが重兵衛は、
「そうかい、それは気の毒でしたなあ。じゃ、代金は九枚分だけもらっておくよ」
と、いつもと違って、ニコニコしながら言いました。
「おや? 重兵衛さん、今日はやけに話が分かるねえ。まあ、代金は九枚分にしなくてもいいから、足りなかった分の皿を一枚もらって行くよ」
そう言って、同じ皿を一枚取った吉四六さんが店を出ようとすると、重兵衛さんがあわてて引き止めました。
「おいおい、吉四六さん、ちょっと待って!」
「なんだい?」
「あんた、皿を泥棒するつもりか? ちゃんと皿の代金を置いて行きな」
さっきとは違って怖い顔の重兵衛さんを見て、吉四六さんは思いました。
(やれやれ、やっぱり本性を現してきたな)
吉四六さんは、わざと不思議そうな顔をして言いました。
「皿の代金だって? ちゃんとこの間、五十文を払ったじゃないか」
すると重兵衛は、皿の値段が書いた張り紙を突き出して言いました。
「この張り紙を読んでみな。
お前が買った皿は十枚ひと組だと五十文だが、バラ売りだと一枚が六文と書いてあるだろう。
だから九枚では五十四文。
それに今日の一枚が六文で、合わせて六十文だ。
この前の五十文を差し引いても、まだ十文が足りないじゃないか」
「なるほど、確かに十文足りないな。こいつは、まいった」
さすがの吉四六さんも、してやられたとばかりに頭をかいて、いさぎよく十文を払いました。
「では、代金の十文」
代金を受け取った重兵衛は、
「どうだい、吉四六さん。あんたも商売上手と聞くが、本当の商売上手とは、おれみたいな者を言うんだよ。あはははははっ」
と、大笑いしました。
「・・・!!!」
この大笑いさえなければ、吉四六さんは素直に帰ったのですが、この事が吉四六さんのとんちに火を付けたのです。
「いや、まったく、あんたにはかなわないなあ。・・・して、ときに重兵衛さん、このかめはいくらするかね?」
吉四六んはそう言って店先に立ててある、大きなかめを指差しました。
それは一人ではとてもかつげないほどの、大きなかめです。
「ああ、それなら一両だ」
「安い! 一両とは安いなあ。じゃあ、今日はこのかめも買って帰るとするよ」
「おいおい、吉四六さん、買ってもらうのはありがたいが、こんな大きなかめを、お前一人でかつげるものか」
「なに、平気だよ」
「平気じゃない。三人がかりで、やっと運んで来た代物だぞ」
「大丈夫。これくらいの物がかつげないようでは、百姓は出来ないよ」
「ほう、こりゃ面白い。もしお前さん一人でこのかめがかつげたら、代金はいらん。ただでやろう」
「そりゃ、本当かい?」
「本当だとも」
「よし、ではかついでみせるよ」
きっちょむさんはそう言うと、近くにあった石を両手で持ち上げました。
「おいおい、吉四六さん。それで一体、何をするつもりだ?」
「なに、このままでは持ちにくいから、この石でかめを粉々にしてやるのさ。そうすりゃあ、何回かに分けて持って帰れるだろう」
「あっ、そうきたか!」
「じゃあ、ここで割らしてもらうよ」
そう言って再び石を持ち上げる吉四六さんを、重兵衛さんはあわてて止めました。
「まて、待ってくれ!」
「いや、待てぬ。今すぐ持って帰るのだから」
「しかしそれでは、一両を失ったのと同じだ。いくら何でも、そんなもったいない事は」
「よし、ではこのつぼを売ってやるよ。一両のところを、たったの百文でどうだ? それがいやなら、ここで割るぞ」
重兵衛さんは仕方なく、自分の負けを認めました。
「ま、まいった。そのつぼを百文で買わせてもらうよ。・・・とほほ、やっぱり吉四六さんは、商売上手だ」
こうして吉四六さんは重兵衛さんから百文を受け取ると、ホクホク顔で帰ったのでした。
おしまい
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