3月9日の日本の昔話
サザエ売り
吉四六(きっちょむ)さん
むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
さて、久しぶりに臼杵(うすき)の町へ出た吉四六さんは、何か変わった物はないかと大通りを歩いていました。
すると、魚屋の前に出ました。
店には立派なサザエが、いくつも並んでいました。
「ほほう、サザエか。・・・サザエねえ。・・・よし、一儲け出来そうだ」
ある名案を思いついた吉四六さんは、魚屋に入って行きました。
「あの、これは、何ちゅう物かな?」
吉四六さんは、わざと知らないふりをしてサザエを指差しました。
「ああ、これはサザエという物だ。お前さん、知らんのかい?」
吉四六さんはサザエを手に取ると、いじってみたり、重さを計ってみたりしながら、
「これは珍しい形の貝だ。家の土産に買って帰りたいので、三つほどくれや」
「へい」
魚屋が吉四六さんにサザエを渡すと、吉四六さんが言いました。
「すまんが、火箸の様、固い棒を貸して下さい」
吉四六さんは火箸を借りるとサザエのふたをこじ開けて、中身を取り出しました。
そしてサザエの中身を、ポイと捨ててしまうと、
「こんな物が入っていると、重くてかなわん」
と、言って、そのまま帰ってしまいました。
魚屋は吉四六さんが行ってしまうと、サザエの中身を拾って、
「何とも馬鹿な奴もいるもんだ。だが、金は払ったし、中身も残っている。こりゃ、もうかった」
と、言いました。
それから何日かして、また吉四六さんは臼杵の町にやって来ました。
そして魚屋によると、またサザエを三つ買って中身を捨てて、サザエの殻(から)だけを持って帰りました。
魚屋は大喜びです。
「あいつは本当に馬鹿だな。・・・いやいや、良いお客さまだ。よし、今度は大量に仕入れるとするか。うっひひひひ」
それから何日かして、またまた吉四六さんは臼杵の町にやって来ました。
今日は、ウマを引いています。
魚屋に行ってみると、サザエが店の前に山ほど積んでありました。
魚屋は吉四六さんを見つけると、ニコニコしながら呼び止めました。
「おい、そこのばー・・・。いや、お客さま。今日はサザエを買わないんですか? 大量に仕入れたから半値で、いやいや、半値の半値で、ええい、たったの一文で、欲しいだけお売りますよ」
魚屋にしてみれば、中身をいちいち取り出す手間はいらないし、殻を処分する手間も入りません。
本当なら吉四六さんに、手間賃を支払ってもいいくらいです。
すると吉四六さん、ちょっと迷惑そうな顔をして、
「そこまで言うなら、もらっていこうか。今日はちょうどウマも引いているし、みんなもらっていくよ」
「へい、商談成立だ」
吉四六さんは一文を差し出すと、火箸を差し出す魚屋に言いました。
「いや、これだけの数だと時間もかかる。商売の邪魔をしちゃ悪いから、中身も入れたまま、もらっていくよ」
「へっ?」
魚屋が驚いている間に、吉四六さんは店のサザエを全部ウマに積み込むと、そのまま行ってしまいました。
そして少し歩いたところで、吉四六さんは大声で言いました。
「ええ、サザエはいらんかね。安いよ。安くてうまい、サザエだよー」
おしまい
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