きょうの日本昔話
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5月3日の日本の昔話

じぞうの田うえ

じぞうの田うえ

 むかしむかし、あるところに、よくはたらくわかものがすんでいました。
 田をたがやすのも、畑をつくるのも、ひとりでしました。
 わかものは田へでかけるとき、畑からうちへもどるとき、いつも村はずれのおじぞう(→詳細)さまに、ていねいに手をあわせて、おがみました。
「ありがたい。おじぞうさまはありがたい。おじぞうさまをおがんでいると、こころがはればれする。あなたもおがんでごらんなさい」
 村の人にも、こういってすすめました。
「そんなにおじぞうさまをおがんで、なにかいいことがありますか」
 村の人がきくと、わかものはわらってこたえました。
「わたしは、おじぞうさまがすきなのです。いいことがなくてもよいのです。おじぞうさまのニコニコしたお顔をみると、きもちがよいのです」
 そのわかものが、びょうきになりました。
 ちょうど、田うえをするころで、一日もあそんではいられないときです。
 田うえがおくれては、よいイネはできません。
「こまったな。はやくおきて、田うえをしたいものだ」
 わかものは、こころのなかでおじぞうさまにたのみました。
「おじぞうさま、びょうきをなおしてください。わたしは、はやくはたらきたいのでございます。はたらくほど、きもちのよいことはありません」
 そのばんのことです。
 村の人が、わかものの田のそばをとおると、だれかが田のなかにたっていました。
「こんばんは」
と、いうと、
「はい、こんばんは」
と、こたえました。
 村の人は、ふしぎにおもいました。
 いままでみたこともない、どこかの人です。
 その人は、つぎの日も、わかものの田に入っていました。
 ひとりで、せっせと田うえをしていたのです。
「こんにちは」
と、いうと
「はい、こんにちは」
と、こたえました。
 そのしらない人は、とてもしごとがはやくて、ひと晩と一日で、わかもののうちの田うえを、すっかりすませてしまいました。
「ふしぎな人だ。いったい、どこのだれだろう」
 村の人たちは、うわさをしました。
 うわさが、殿さまにもきこえました。
 殿さまは、そのしらない人をお城によびました。
「おまえは、びょうきのわかものの田うえをしてやったそうだな。かんしんなことだ。よその人のこまっているのをたすけるのは、よいことだ。ほうびにいっぱいのめ」
 殿さまは、お酒をのませました。
「ありがとうございます」
 だれもしらないどこかの人は、うまそうにお酒をのみました。
「もっとのめ、もっとのめ」
 殿さまはすすめました。
 しらない人は、顔をまっかにして、手をふりました。
「もうのめません。これでかえります」
 フラフラッとたちあがりました。
「まてまて」
 殿さまはよびとめました。
「このさかずきをおまえにやろう。また、酒をのみたくなったら、ここへまいれ」
と、さかずきをやりました。
 しらない人は、さかずきをヒョイと頭にのせ、フラフラしながらかえっていきました。
 びょうきのわかものは、このはなしをきいて、くびをひねってかんがえました。
「うちの田うえをしてくれた人って、いったいだれだろう?」
 いくらかんがえてもわかりません。
「だれだかしらないが、ありがたいことだ。これも、おじぞうさまのおかげにちがいない。おれいにいってこよう」
 わかものは、すこしからだがよくなったので、おじぞうさまのところへいきました。
「おじぞうさま、おひさしぶりですね。・・・あっ!」
 わかものはおじぞうさまをみて、ビックリしました。
 おじぞうさまの頭の上に、さかずきがチョンとのっていました。
 そればかりではありません。
 足には田んぼのドロが、こびりついていました。
「おじぞうさま、田うえをしてくださったのは、あなたでしたか。このさかずきは、殿さまからいただいたさかずきで、ドロは田の土でございましょう。おかげさまで、ことしもおこめがとれます。わたしがびょうきだったので、おほねおりをかけました。もったいない、もったいない」
 わかものは、おじぞうさまの足のドロを、きれいにおとし、お酒をかってきて、おじぞうさまにあげました。

おしまい

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