きょうの百物語
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7月18日の百物語

安珍清姫

安珍清姫
和歌山県の民話

 むかしむかし、安珍(あんちん)という名の若い旅のお坊さんが、紀州(きしゅう→和歌山県)の熊野大社(くまのたいしゃ)へお参りをする途中で日が暮れて困っていました。
「今夜の宿を、どこかに探さねば」
 安珍は、庄屋(しょうや)の家に泊めてもらいました。
 この庄屋の家には清姫(きよひめ)という一人娘がいて、疲れた安珍をやさしくもてなしました。
(素敵なお方)
(何と美しい娘だろう)
 清姫と安珍は、すぐに心が惹かれあいました。
 しかし安珍は修行中で、女の人を好きになる事は許されません。
(駄目だ、駄目だ! わたしは修行中の身、女人に心を奪われてはならぬ!)
 でも安珍は旅立つ前、清姫にこう言いました。
「熊野からの帰りには、必ずここに寄ります。・・・あなたに、会う為に」
「うれしい」

 次の日、安珍は無事に熊野大社へ着きましたが、熊野の僧侶(そうりょ)たちに心の迷いを見抜かれてしまいました。
「安珍よ、仏の道を捨てると言うのであれば、何も言わぬ。だが、そうでないのなら、迷いから目を覚ませ!」
「確かに、わたしは修行中の身。女人に心を奪われるなど、あってはならぬ事」
 安珍は仏の道を選ぶと、清姫への思いを捨て去りました。
 そして清姫とは二度と会わない様に、帰りは別の道を行く事にしました。
 ところが清姫は安珍との約束を信じて、安珍の帰りを今か今かと待ち続けています。
「安珍さま。安珍さまは、いつ戻って来てくれるのかしら?」
 清姫は何日も何日も待ち続けましたが、ついに待ちきれなくなって家を飛び出すと、通りかかった旅人に声をかけました。
「あの、もし、熊野もうでの若い旅のお坊さまに、お会いになりはしませんでしたか?」
「ああ、その方なら知っております。確か、別の道を行かれたはず」
「別の道を! あんなに固い約束をしたのに。まさか、そんなはずが」
 清姫は、夢中で街道を走り出しました。
 朝も夜も休まず狂った様に走り続けて、そして日高川の渡し場まで来た時、ようやく安珍の姿を見つけたのです。
「安珍さまー。安珍さまー」
 走って来る清姫に気づいた安珍は、頭を振って自分に言い聞かせました。
(わたしは、修行中の身。清姫には、二度と会ってはならないのだ!)
  そして、船頭に言いました。
「船頭(せんどう)さん。はっ、早く船を出してくだされ。早く、早く!」
 自分が追いかけているのを知っていながら船頭をせきたてる安珍を見て、清姫は驚きました。
「安珍さまーっ。なぜ、どうして」
 清姫は自分から逃げて行こうとする安珍に悲しみ、やがてその悲しみが激しい憎しみへと変わっていったのです。
「安珍さま。これほど、これほど想っているのに、なぜ逃げるのです。・・・なぜ、なぜ逃げるのじゃ!」
 清姫は安珍が乗った船を追って、そのまま日高川へ飛び込みました。
 そして安珍を追いかける清姫は、いつの間にか恐ろしい大蛇の姿になって川を渡っていたのです。
「おのれ! にっくき安珍め!」
 向こう岸に着いた安珍は船をおりると、夢中で走り出しました。
 そしてその後を、大蛇になった清姫が追いかけます。

 安珍は走りに走って、街道のそばにある道成寺というお寺に駆け込みました。
「恐ろしい大蛇に追われております! どうかわたしを、この寺へおかくまいください」
「それならば」
 お寺の人たちは釣鐘をおろして、その中に安珍をかくまってくれました。
 釣鐘の中に身を隠した安珍は、静かにお経を唱え続けます。
 清姫の大蛇は道成寺の石段をうねうねと登ると、山門をくぐって安珍を探しました。
 そしてついに、大蛇は安珍が隠れている釣鐘を見つけたのです。
「見つけた。いとしい人、もう離さない」
 大蛇は釣鐘に体をグルグルと巻きつけると、大きな口からまっ赤な炎を吐き続けました。
 炎でまっ赤に染まる釣鐘の中で、安珍は一心にお経を唱え続けます。
(清姫よ、許してくれ! わたしにはあなたよりも、仏の道が大切なのだ!)
(安珍さま、もう決して離さない。ずっと一緒よ)
 やがて安珍は炎でまっ赤になった釣鐘の中で、焼け死んでしまいました。

おしまい

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