1月9日の日本民話
イヌになった男
島根県の民話
出雲大社(いずもたいしゃ)の大神(おおがみ)さまは、毎年八月十四日の晩に、町の中を歩くといわれています。
町の人たちはこの夜を「みねんげさんの夜」と呼んで、どこの家でも夕方になると早めに戸をしめて、ねむることにしていました。
早く戸じまりをするのは、もしも神さまの姿を見たりすると、とんでもないバチがあたるといわれているからです。
さて、むかしむかしのある年の八月十四日に、ほかの町からやってきた男が、友だちの家でこの「みねんげさんの夜」の話をききました。
「ちょうどいい。おれは一度でいいから、神さまというのはどんな顔をしておるのか、見てみたいと思っておったんだ」
そういって、友だちが止めるのもきかずに、夜になると家から出て行ったのです。
そして道ばたの木のかげにかくれて、神さまの行列が通るのを息をひそめてまっていました。
やがて、ゆっくりと行列がやってきました。
神官たちにかつがれた輿(こし)の中にいる神さまは、ふと、闇(やみ)の中から自分にむけられている目がある事に気がつきました。
「あそこの木のかげからのぞいておるのは、だれじゃ?」
おつきの者はあたりを見回しましたが、暗すぎて、人間の目には何も見えません。
「はて。わたしには何も見えませぬが、きっと、のらイヌでござりましょう」
と、こたえると、神さまは、
「そうか。イヌか」
と、いったとたん、木のかげにかがみこんで神さまを見ようとしていた男は、たちまちイヌになってしまったという事です。
おしまい
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