6月8日の日本民話
ツバメを愛した娘
千葉県の民話
むかしむかし、あるところに、なかなか子どもにめぐまれない夫婦がいました。
でもようやく、女の子がうまれました。
とても美人でかしこい、心のやさしい娘です。
この娘が、十三歳になった春のことです。
遠い南からツバメがやってきて、家の軒下(のきした)に巣(す)をつくって三羽のヒナをうみました。
かわいいヒナや親鳥たちを、娘は毎日たのしみに見ていました。
ところがある日、親鳥が二羽とも近所のネコに食べられてしまったのです。
娘はとても悲しみましたが、三羽の子ツバメをカゴにいれて、育てることにしました。
一羽は死んでしまいましたが、残った二羽はぶじに育って、やがて飛ぶようになりました。
朝に娘がカゴの口をあけてやると、二羽のツバメは元気に空へ飛びたっていきます。
そして夕方になると、ちゃんと帰ってきて、カゴの中に入るのでした。
秋になってツバメたちが南へ帰るときになると、娘は二羽のツバメの足に、
「春になったら、また帰ってきてね」
と、目印(めじるし)の赤い糸をくくりつけました。
二羽のツバメは秋の空へ高く飛びあがって、娘のもとを去っていきました。
それからまもなくして、娘はかぜをこじらせて病気になってしまいました。
両親はいろいろな医師を連れてきましたが、そのかいもなく、娘は静かに息をひきとりました。
やがて、また春がやってきました。
ある日のこと、二羽のツバメが元気に鳴きながら、家へやってきました。
ツバメは娘の姿をさがしているのか、家の中を飛びまわっています。
母親がふとツバメを見ると、娘が足にむすんだ赤い糸が見えました。
母親はこみあげてくるものをおさえながら、ツバメたちにいいました。
「あんたたちをかわいがって育ててくれた娘はね、このお正月に病気で死んでしまったのよ。もう、ここにはいないの。娘に会いたいなら、お寺の裏にあるお墓へ行きなさい。左のすみに新しいお墓があるから」
母親の言葉がわかったのか、ツバメはかなしそうに鳴くと、外へ飛びたっていきました。
ツバメが家にきた三日後は、娘の月の命日です。
両親は春の花を持って、娘のお墓へお参りにいきました。
「おや? あれはなんだろう?」
見ると、お墓の前に、足に赤い糸をつけた二羽のツバメが死んでいたのです。
「ツバメさえ、こんなにしたっていた娘なのに」
両親は二羽のツバメのなきがらを小箱にいれて、娘のお墓に一緒にうめてやったという事です。
おしまい
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