6月30日の日本民話
ものを言うネコ
京都府の民話
むかしむかし、山城の国(やましろのくに→京都府の南部)に清養院(せいよういん)という寺がありました。
ある夏の夜の事、おなかをこわした和尚(おしょう)さんが便所に入っていると、庭の木戸(きど→庭や通路の入口などにもうけた、屋根のない開き戸の門)から、
「これ、これこれ」
と、呼ぶものがいます。
(はて? いまごろ、だれがたずねてきたのか?)
不思議に思った和尚さんが窓から外を見てみると、部屋の中から和尚さんの飼っているネコがかけだしてきて庭へととびおりました。
ネコはあわてて木戸のところへ行き、カギをはずします。
すると、一匹の大きなネコが現れ、
「こんばんは」
と、言ったのです。
(・・・ネコがしゃべるなんて!)
和尚さんはビックリして、なおもよく見ていたら、大ネコは寺のネコの案内で部屋に入っていきました。
和尚さんが便所の中でジッと耳をすましていると、大ネコがいいました。
「今夜、町でおどりがあるから、一緒に行かないか?」
「うん、そいつはおもしろそうだ。・・・でも、うちの和尚さんの具合が悪いので、今夜は行かれないよ」
と、寺のネコが言いました。
「そいつは残念だな。では、すまないが手ぬぐいを一本貸してくれないか」
「ごめん。その手ぬぐいも、和尚さんがひまなく使っているので、持ちだすわけにはいかないよ」
「それじゃ、今夜はあきらめるとするか。おじゃましたな」
「せっかくさそってくれたのに、申しわけない」
寺のネコは大ネコを庭の木戸まで送っていくと、ふたたび部屋にもどっていきました。
(わしの病気を心配して遊びにも行かないとは、なんてやさしいネコよ)
和尚さんはうれしくなって、便所を出るとすぐ部屋に戻りました。
ネコは和尚さんの布団の横に、ジッとうずくまっています。
和尚さんは、ネコの頭をなでながら言いました。
「わしの事なら、もう大丈夫。気にしないでお前も踊りに行ってこい。この手ぬぐいをあげるから」
和尚さんは、手ぬぐいをネコの頭にのせてあげました。
ネコは何も言わずに、和尚さんの手をはなれると外へ走っていきます。
ところがそれっきり、二度ともどって来ませんでした。
和尚さんは大変がっかりし、さみしがりました。
そして、この事を人に話したら、
「それは、ネコがしゃべるのを和尚さんに聞かれてしまったからですよ。ネコがしゃべるようになると、飼い主をかみ殺すと言いますからね。でもそのネコは、よっぽど和尚さんを大切に思っていたので、だまって出ていったのです」
と、教えてくれたという事です。
おしまい
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