8月30日の日本民話
米ぶきと粟ぶき
秋田県の民話
むかしむかし、あるところに、米ぶきと粟(あわ)ぶきという名前の姉妹がいました。
米ぶきが姉さんで、粟ぶきが妹です。
お母さんは自分に似ている粟ぶきばかりかわいがり、姉さんの米ぶきにはいつも辛くあたっていました。
そんなある日の事、お母さんは二人に袋を渡して、
「山で栗を拾っておいで。袋いっぱいになるまで、帰ってくるんじゃないよ」
と、言いました。
米ぶきと粟ぶきは、袋を持って出かけました。
でも、米ぶきの袋には穴が開いているのです。
米ぶきが家に帰って来られないように、お母さんが穴の開いた袋を持たせたのです。
山につくと粟ぶきは、すぐに袋いっぱい栗を拾いました。
けれど米ぶきの方は、いくら拾って袋につめても、すぐに空っぽになってしまいます。
すると、粟ぶきが言いました。
「姉さんの袋には穴が開いているよ。山のお堂へ行ったら木の皮をはぐ爺さまがいるから、つくろってもらっておいでよ。あたし、ここで待っているから」
米ぶきは教えられた通りに山のお堂へ行き、木の皮はぎ職人のおじいさんに穴の開いた袋をつくろってもらいました。
おかげで米ぶきの袋も、すぐに栗でいっぱいになりました。
ところが帰ろうと立ちあがったとき、あたりは急に暗くなりました。
米ぶきと粟ぶきは、しばらくウロウロと帰り道を探して歩きまわりましたが、どうしても見つかりません。
そうしているうちに、あかりのついた一軒の家を見つけたので、二人はほっとして行ってみました。
二人が戸をたたくと、中から真っ白な髪の小さなおばあさんが出て来ました。
「今夜泊めてください。あたしたち、道に迷ったのです」
「そんなら、このばあさんの腰元に隠れて寝ろ。もうすぐ息子の太郎と次郎が帰って来るでな。あの息子たちに見つかったら、食われるからな」
米ぶきと粟ぶきは怖いと思いましたが、もうクタクタでしたので、おばあさんの腰元で眠らせてもらうことにしました。
しばらくすると、太郎と次郎が帰って来ました。
「ばあさま、なんだか臭うぞ。人間の臭いだ」
「へえ、そうかね。そりゃ、さっき里の鳥がここへ迷い込んだから食ったけど、きっとその臭いだろ」
おばあさんは、うまくごまかしてくれました。
「鳥ねえ?」
太郎と次郎はフンフンにおいをかいでいましたが、そのうちにあきらめて寝てしまいました。
朝になると、人食い太郎と次郎は仕事に出かけました。
「さあ、いいぞ」
おばあさんが声をかけると、米ぶきと粟ぶきはにっこり笑って出て来ました。
おばあさんは米ぶきと粟ぶきに、火ばしを渡して言いました。
「帰る前に、おれの頭のしらみを、全部取ってくれ」
トカゲのように大きなしらみを見ると、粟ぶきは気持ち悪いと部屋のすみへ逃げてしまいました。
でも米ぶきはおばあさんの頭の中に顔をつっこむようにして、火ばしで次々としらみを取って、それを全部いろりの火で焼きました。
「ああ、久しぶりにいい気持ちだ。悪かったの」
おばあさんは喜んで、米ぶきに小さな小さな箱を渡しました。
そして粟ぶきには、いり豆をほんの少しやりました。
米ぶきは小さな箱を抱いて、粟ぶきは手にいり豆を持って、明るくなった山道を下りて行きました。
だけど途中で、太郎と次郎に見つかってしまったのです。
「人間だ! 喰え!」
太郎と次郎は、ゴウゴウと恐ろしい音をたてながら追いかけて来ます。
米ぶきと粟ぶきは、真っ青になって逃げました。
でも、走っても走っても太郎と次郎の足は早く、もう少しでつかまりそうです。
そのとき粟ぶきは、思わずおばあさんからもらった、いり豆を投げました。
すると太郎と次郎の目の前に、いきなり大きな山があらわれたのです。
米ぶきと粟ぶきは太郎と次郎が山を登っている間に、逃げて逃げて自分たちの家にかけ込みました。
「お母さん、今帰りました!」
二人の姿を見ると、お母さんは、
「栗はどうした、米ぶき」
と、袋をひったくって言いました。
穴の開いていたはずの袋はきれいに縫ってあり、栗も入っています。
お母さんはがっかりしてため息をつくと、栗を取り出して、ゆでて食べさせました。
何日かたって、町に祭の日が来ました。
「米ぶき、母さんと粟ぶきは祭に行って来るからな。お前は目籠(めかご)で風呂に水を汲んで、粟を十石(じゅっこく→約1800リットル)ついておけ」
お母さんはそう言いつけて、粟ぶきと出かけました。
米ぶきも祭に行きたいのですが、用事は言いつけられたし、きれいな着物もないので行けません。
仕方なく風呂に水を入れようとしましたが、目籠ではいくら水を汲んでも、こぼれて汲めません。
そこへ旅の和尚さんが通りかかり、声をかけて来ました。
「どうしたね。何か困っているようすだが」
米ぶきが目籠では水が汲めないことを言うと、和尚さんは着物のそでを裂いて目籠を包んでくれました。
「さあ、これでもう大丈夫」
「ありがとうございます」
米ぶきは、風呂いっぱい水を汲みました。
「次は粟を十石。十石なんて、明日までかかるわ」
米ぶきがしょんぼりしていると、どこからともなく雀が集まって来て、あっという間にチュンチュンと、十石つくのを手伝ってくれました。
そこへ、隣の家の娘がきて、
「祭に行こうよ」
と、言いました。
でも米ぶきの着物は、ぼろぼろです。
「行きたいけど、これでは行けない」
米ぶきは断ろうとして、おばあさんがくれた小さな箱を思い出しました。
米ぶきは、そっと箱を開けてみました。
すると、どうでしょう。
小さな箱の中から飛び出すように、きれいな着物が出て来たのです。
米ぶきは喜んでその着物を着て、隣の娘と出かけました。
祭では大勢の人たちが、美しい米ぶきを見て
「どこのお姫さまだろう」
と、言いました。
粟ぶきは米ぶきを見て、
「あれは、姉さんよ」
と、言いましたが、お母さんは笑って信じてくれませんでした。
米ぶきは祭を楽しんで、お母さんより先に家に戻ると、着物を小さな箱にしまって、いつもの着物で働きました。
しばらくして、お母さんと栗ぶきが帰って来ました。
「ほれ、ごらん。米ぶきは家にいるじゃないか」
お母さんがそう言ったとき、立派な見なりの男の人が、たずねてきて言いました。
「米ぶきさまを嫁にいただきたい。祭でひと目見て気にいりました。隣の娘さんから、あの美しい方は米ぶきさまと聞きました」
それを聞いたお母さんは、あわてて言いました。
「米ぶきはボロ着の娘です。頭は悪いし、器量も悪い。もらうなら、妹の粟ぶきにしてください」
ですが男の人は、米ぶきでなければ嫌だと言いはります。
そうしている間に、米ぶきは小さな箱から花嫁衣装を取り出して、それを着ました。
「おおっ、これは素晴らしい。三国一の花嫁だ!」
男の人は喜んで、米ぶきをカゴに乗せて行きました。
それを見た粟ぶきが、言いました。
「姉さんはいいなあ、カゴに乗せてもらって嫁入りなんて」
それを聞いたお母さんは、粟ぶきを可哀相に思い、
「カゴはないけど、これに乗りなさい」
と、カゴのかわりに粟ぶきを臼に乗せて、田んぼのあぜ道を引っぱって歩きました。
すると臼がゴロゴロと転がって二人とも田んぼにはまってしまい、そのまま水に沈んで、宮入貝(みやいりがい)になってしまったということです。
おしまい
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