10月21日の日本民話
三人のほら吹き
佐賀県の民話
むかしむかし、九州には、三人のほら吹きの名人がいました。
その三人とは、肥後(ひご→熊本県)の彦兵衛(ひこべえ)と、肥前(ひぜん→佐賀県)の安兵衛(やすべえ)と、唐津(からつ→佐賀県)の勘右衛門(かんえもん)です。
ある日、三人は酒をのみながら話しをしていると、だんだん話しが大きくなり、ついに自分の住んでいる土地の自慢大会になったのです。
最初に安兵衛が言いました。
「肥前にはな、大むかしに大きなクスノキがあったのだ。その影は肥前中をおおいかくし、雨がふってもカサがいらんのじゃ。こんなに大きなクスノキは、日本中探してもなかろう」
と、言ったのです。
すると、彦兵衛が言いました。
「肥後の阿蘇(あそ)には、大きな赤ウシがいるんだぞ。そのウシときたら同じ所におりながら、向きをちょっと変えるだけで、肥後の野原の草を食べつくすことができるそうだ。こんな大きなウシは、他にはいないだろう」
と、言いました。
これを聞いていた勘右衛門は、
「それは大きな話だな。だが唐津には、もっともっと大きな話があるんだ」
と、もったいぶって言いました。
すると安兵衛は、文句を言いました。
「またまた、お前はわしたちをはぐらかす話をするつもりだろう? 本当に、わしの話より大きな話があるというのか?」
すると勘右衛門は、
「まあ、文句はわしの話を聞いてから言え。唐津にはな、とても大きな大きな太鼓(たいこ)があるんだ。太鼓の胴は、肥前のクスノキをくりぬいて作ってあるんだ。その太鼓の皮はな、彦兵衛どんの言った阿蘇の赤ウシの皮を張ってあるんだよ」
と、言ったのです。
それを聞いた二人は、
(しまった。このままでは、またまた勘右衛門にやりこめられる)
と、思ったのか、あわてて言いました。
「それは大きな話だな。だが、そんなに大きな太鼓の音は聞いたことがない。どんな音がするのか聞かせてもらおう」
すると勘右衛門は、平気な顔で、
「それがなあ。この大きな太鼓を打つと九州ばかりでなく、唐の国にまで音がひびいて耳は聞こえなくなるし、海には津波(つなみ)が起こるんだ。それで殿さまが、『あれは絶対に、打ってはいかん』と言われてのう。打つことができないんだよ」
と、言ったのです。
話しも上手なら、逃げ方も上手な勘右衛門に、二人は頭をかきながら言いました。
「こいつは、またまたおらたちの負けだな。まったく、勘右衛門にはかなわん」
その後三人は大笑いをして、仲良く酒をのんだという事です。
おしまい
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