12月15日の日本民話
あどけない目
東京都の民話
むかしむかし、江戸(えど→東京都)の本所(ほんじょ)のいろは長屋に、二人の浪人(ろうにん)がとなりあわせにすんでいました。
一人は榎左門(えのきさもん)といって、七つになる一人娘と、わびしくくらしていました。
となりの浪人は、林田重三郎(はやしだじゅうざぶろう)といって、妻と二人ぐらしでしたが、妻から毎日のように、はやく仕官(しかん→役人になること)するようにと、せめられていました。
さて、ある日の事、二人に仕官の声がかかってきたのです。
でもそれは、殿さまの御前(ごぜん→位の高い人の前)で試合をして、勝った方だけをめしかかえるというものでした。
これをきいた重三郎(じゅうざぶろう)の妻は、大喜びです。
と、いうのも、夫は、となりの左門(さもん)よりもずっと強いからです。
「これはどう見ても、あなたさまの勝ちでございますね」
「うむ」
重三郎(じゅうざぶろう)は、左門(さもん)の腕前が自分よりもおとっているのをよく知っていましたが、試合の日まで、ただひたすらけいこをつづけていました。
さて、いよいよ試合の日。
重三郎と左門は、木刀をとって殿さまの御前でむかいあいました。
重三郎は自分の勝利を確信しており、左門は勝ち負けにこだわらず、全力をつくそうと心にきめていました。
でも試合の結果は、人々の予想とは反対に、左門の勝ちだったのです。
心のやさしい左門は、
「友だちでありながら、このような事になって・・・」
と、重三郎に頭を下げました。
しかし、負けた重三郎は左門がにくくてたまりません。
そしてそのあげく、大変な事を考えついたのです。
(そうだ。左門がなにより大事にしている、あの一人娘を殺してやろう)
そして左門のるすをねらって重三郎は娘をつれだすと、人気のない森の中へ連れ込みました。
「おとうさまが、森のむこうで待っているの? おじさま」
たずねる娘に重三郎は刀を抜くと、いきなり小さな娘の両腕を切り落とし、そしてむねに刀を突き刺すと、知らん顔で長屋にかえってきたのです。
ところが、家に入ったとたん、
「あっ!」
と、さけびました。
なんと自分の妻が、血まみれになって倒れているのです。
それもちょうど、自分が娘にやったように両手を切り落とされて、むねを刀でつきさされているのです。
重三郎は妻殺しの罪で、その日のうちにとらえられました。
そして刑場(けいじょう)へひかれていく途中、重三郎は目を疑いました。
大勢の人だかりの中に、父親の左門に手をひかれて、あの娘が自分を見あげているのです。
「ああ、おれはなんとあさましい事をしたのだ。人をうらむと、それは自分にかえってくるのか」
重三郎は処刑される前に、そういったという事です。
おしまい
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