きょうの日本民話
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12月23日の日本民話

年の市

年の市
青森県の民話

 むかしむかし、あるところに、与作という、少し頭の弱い若者がいました。
 与作のおじいさんは、毎年年末になると年の市へ買い物に出かけていましたが、もうすっかり年を取ってしまったので、今年は与作に行かせる事にしたのです。
「与作、年の市へ行って来てくれ。そして買い物がすんだら、さっさと戻って来るんだ」
 おじいさんはそう言って、与作にお金を百文持たせました。
 さて、与作が町へ来てみると、年の市は大変なにぎわいです。
「はて、年の市は、どこに売っているのかな?」
 与作は人ごみをかきわけて、年の市を売っているお店を探しました。
 年の市とは、お正月用の食べ物やかざり物を売るお店がたくさん出ている事なのですが、与作は品物の名前だと思っていたのです。
 与作は一つ一つのお店をのぞいて歩きましたが、年の市と書かれた品物はどこにもありません。
 何時間もうろうろ探しているうちに、買い物客は、どんどん帰っていきます。
「どうしよう。もう、店が閉まる時間だ」
 困った与作は、大声で叫びました。
「だれか! だれか、年の市を売ってくれんか!」
 すると、それを聞いた人々は、
「あの若者、何を言っているのだ? 年の市を売れだなんて」
「ほんとにね。少し頭が弱いんだろう」
と、あきれて与作を見ています。
 すると、お面を売っていたお面売りの男が、与作を呼び止めて言いました。
「やあ、もしよければ、わしが年の市を売ってやろう」
「年の市を売ってくれるのか!」
 与作が大喜びで立ち止まると、男は与作に鬼のお面を渡して言いました。
「これが、年の市だ」
「なるほど、なかなかよく出来ているな」
「そうだろう。これほど立派な年の市はないぞ」
 お面売りは、売れ残りのお面を与作に売りつけようと思ったのです。
 でも、そんな事とは知らない与作は、
「それで、この年の市はいくらだ?」
「へい、おまけして、七十五文です」
「よし、買った」
 こうして与作は、鬼のお面を買うと、大急ぎで家に帰って行きました。
 さて、家では与作の帰ってるのが遅いので、おじいさんが心配しながら待っていました。
「ただいまー。年の市を買ってきたよ」
「おおっ、やっと戻ったか。どれ、それで何を買ってきたんだ?」
 すると与作はうれしそうに、買ってきた鬼のお面を見せました。
「どうだい。立派な年の市だろう」
 それを聞いたおじいさんは、顔をまっ赤にして怒りました。
「馬鹿者! いい年をして、買い物も出来んでどうする! せっかくの年越しが、こんなお面とは! この、ろくでなし! 出て行け!」
 そしておじいさんは、与作を家から追い出してしまいました。
 与作は、どうしておじいさんが怒っているのかわかりませんでしたが、仕方なく鬼のお面を持って歩き出しました。
 しばらく行くと、一軒の空き家がありました。
 あまりにも寒いので、与作はそのお面をかぶって空き家に入ると、置いてあったわらにもぐって眠ってしまいました。
 するとやがて、一仕事を終えた盗賊たちがこの空き家に入ってきて、盗んだ金を分け始めたのです。
 この空き家は、盗賊たちの住み家だったのです。
 物音に目を覚ました与作は、家の人たちが帰って来たと思って、鬼のお面をかぶったまま、盗賊たちに挨拶をしました。
「やあ、おじゃましています」
 すると盗賊たちはびっくりして、
「お、鬼だー!」
と、盗んだお金を置いたまま、転がるように逃げてしまったのです。
「あっ、ちょっと、お金を忘れているよ」
 一人残った与作は、そのお金をかき集めると、
「どうしよう。・・・とりあえず、拾ったお金は届けないと」
と、そのお金を役人のところへ持っていきました。
 すると、話を聞いた役人は、
「その金は、盗賊たちがどこからか盗んできた物だろう。それにしても、お前は正直な男だ。誰の物かわからん金だから、みんなお前が持って帰るがよい」
と、正直に届けた与作に、そのお金を全部くれたのです。
 さて、与作がたくさんのお金を持って家に帰ってきたので、おじいさんは大喜びです。
 そこで、おじいさんは与作を連れてあらためてお正月の品物を買いに行き、とても楽しいお正月を迎えたということです。

おしまい

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