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2009年 1月2日の新作昔話

いも正月

いも正月
栃木県の民話

 むかしむかし、ある村に茂作(もさく)いう若者が、お母さんと二人でくらしていました。
 茂作はちっとも仕事をしないで、ブラブラと遊んでは酒を飲んでばかりでした。
 そのために、食べ物にも困るようなくらしです。
 おまけに茂作は誰からもそっぽをむかれる、嫌われ者です。
 そこで茂作も、ようやく考えを改めました。
「おれ、村を出て行くよ。おれ、よその土地へ行って、今度こそ本当に働いて稼いで帰って来るからな」
 それを聞くと、お母さんは黙ってうなずき、家を出て行く茂作をそっと見送りました。
 お母さんが茂作の元気なことを神さまに祈り続けて、三年の月日が過ぎました。
 村の人たちはお母さんに、
「そのうち帰って来るから、心配すんな」
と、言い、ときには、そばや野菜を届けてくれるようになりました。
 それは貧しいくらしのお母さんにとって、とてもありがたいことでした。
 それに村の人たちがなぐさめてくれる言葉も、お母さんの心を暖かくしてくれました。
 やがて、大晦日がやって来ました。
 でも貧しいお母さんの家には、米もありません。
 あるのは、少しばかりのいもだけです。
 仕方なく川でいもを洗っていると、旅人が声をかけてきました。
「すみません。わたしは山のむこうで、お正月をお迎えするつもりでした。ですが途中でお金を落としてしまい、昨日から何も食べていません。なにか食べ物を、わけてもらえませんか」
 お母さんはやさしくうなずくと旅人を家に連れて行き、夕飯のために煮ておいたいもを出しました。
 旅人は両手でいもをつかむと、よほどおなかを空かせていたのか、ものすごい早さで食べて言いました。
「・・・あの、申しわけないのですが、もう少しいただけないでしょうか?」
 お母さんはニッコリ笑うと、かまどに火をつけて、旅人に心配している茂作のことを話しました。
 ところで、その話を外で聞いている者がありました。
 それは、三年間仕事につけず帰って来た茂作でした。
 お母さんの話を聞いているうちに、自分が恥ずかしくなり、茂作は家から離れようとしました。
 そのとき旅人が、お母さんに言いました。
「いもの煮える間に、荷物をとって来ます」
 茂作はあわてて、物置きのかげにかくれました。
 旅人は、山の方へ歩いて行きました。
 茂作は裏の土手の方へ、身を隠しながら進みました。
 すると間もなく、山の方から旅人の大きな声が聞こえて来ました。
「いもは、煮えたかー」
「まだだあー」
 お母さんの答える声も聞こえます。
 しばらくするとまた、旅人の大きな声がしました。
「いもは、煮えたかー」
「もう少しだー」
「いもは煮えたかー」
 旅人は山の上の方へ行ったらしく、声がだんだん遠くなっていきます。
 お母さんの方は、声が大きくなりました。
「いもは煮えたかー」
 旅人の声が、遠く小さく聞こえました。
「おーい、いもが煮えたぞ」
 お母さんが家の土間に降りて、山の方へ怒鳴ると、
「そうかあ、戸を開けて待ってろやー」
 旅人の返事が終わらないうちに、ゴォーッと風が吹いてきて、茂作の体がアッという間に木の葉のように高く舞いあがりました。
 そして茂作は風に乗り、しばらくしてドスンと家の土間に落とされました。
「も、茂作!」
 お母さんは驚いて、しりもちをつきました。
 待ちに待った息子が突然帰って来ただけでも驚きなのに、なんと茂作の後ろに金や米や布が、山のように積んであるのです。
「こりゃあ、いったい」
「いや、おれにも何がなんだか、わからねえ」
 茂作もお母さんも、目を丸くするばかりでなかなか起きあがれません。
「もしかしたら、今の旅の人は神さまかも。神さまがしてくださったんでは」
「ああ、そうにちげえねえ」
 お母さんと茂作は立ちあがると、旅人がのぼって行った山にむかって手を合わせました。
 それから茂作は本当によく働くようになり、お母さんを大事にして村の人々とも仲良くくらしました。

おしまい

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