きょうの新作昔話
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2008年 4月7日の新作昔話
サザエ売り
大分県の民話
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
さて、久しぶりに臼杵(うすき)の町へ出たきっちょむさんは、何か変わった物はないかと、大通りをあるいていました。
すると、魚屋の前に出ました。
店には、立派なサザエがいくつかならんでいました。
「ほほう、サザエか。・・・サザエねえ。・・・よし、一儲けできそうだ」
ある名案を思いついたきっちょむさんは、魚屋に入っていきました。
「あの、これは、なんちゅうもんかな?」
きっちょむさんは、知らないふりをしてサザエを指さしました。
「ああ、これはサザエというもんだ。お前さん、知らんのかい?」
きっちょむさんはサザエを手にとると、いじってみたり、おもさをはかってみたりしながら、
「これはめずらしいもんだ。みやげに買ってかえりたいが、三つほどくれや」
「へい」
魚屋がきっちょむさんにサザエをわたすと、きっちょむさんが言いました。
「すまんが、火ばしのような、固い棒を貸してくだせえ」
きっちょむさんは火ばしをかりると、サザエのふたをこじあけて、中身をとりだしました。
そしてサザエの中身を、ポイと捨ててしまうと、
「こんな物が入っていると、重くてかなわん」
と、言って、そのまま帰ってしまいました。
魚屋はきっちょむさんがいってしまうと、サザエの中身をひろって、
「ばかなやつもいるもんだ。だが、金は払ったし、中身ものこっている。こりゃ、もうかった」
と、言いました。
それから何日かして、またきっちょむさんは臼杵の町にやってきました。
そして魚屋によると、またサザエを三つ買って、中身を捨てて、サザエのからだけを持って帰りました。
魚屋は大喜びです。
「あいつはバカだな。・・・いやいや、いいお客さまだ。よし、今度は大量に仕入れるとするか。うっひひひひ」
それから何日かして、またまたきっちょむさんは臼杵の町にやってきました。
今日は、ウマをひいています。
魚屋に行ってみると、サザエが店の前に山ほどつんでありました。
魚屋はきっちょむさんを見つけると、ニコニコしながら呼び止めました。
「おい、そこのバ・・・。いや、お客さま。今日はサザエを買わないんで? 大量に仕入れたから半値で、いやいや、半値の半値で、ええい、たったの一文で、ほしいだけやるぞ」
魚屋にしてみれば、中身をいちいち取り出す手間はいらないし、からを処分する手間も入りません。
本当ならきっちょむさんに、手間賃を支払ってもいいくらいです。
するときっちょむさん、ちょっとめいわくそうな顔をして、
「そんなに言うなら、もらっていこうか。今日はちょうどウマもひいてるし、みんなもらっていくよ」
「へい、商談成立だ」
きっちょむさんは一文を差し出すと、火ばしを差し出す魚屋に言いました。
「いや、これだけの数だと時間もかかる。商売の邪魔をしちゃ悪いから、中身も入れたまま、もらっていくよ」
「へっ?」
魚屋がおどろいている間に、きっちょむさんは店のサザエを全部ウマに積み込むと、そのまま行ってしまいました。
そして少し歩いたところで、きっちょむさんは大声で言いました。
「ええ、サザエはいらんかね。安いよ。安くてうまい、サザエだよー」
おしまい
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