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2008年 4月25日の新作昔話

つかのまの二万両

つかのまの二万両
江戸小話

 むかし、ある田舎に、とても貧乏な男がいました。
 いくら働いても、お金がたまらないので、おかみさんを家にのこして、江戸へ出かせぎにいきました。
 けれど、何をやってもうまくいきません。
 男は、考えに考えました。
「そうだ。江戸にはこんなに人がいるのだから、つけものだって、そうとうに食うだろう。つけもの作りには、つけもの石がかかせん。よし、つけもの石を売りあるこう」
 つけもの石は川に行けばいくらでも転がっていますから、もし売れればぼろ儲けです。
 男はさっそく、元手いらずの商売をはじめました。
 けれどやっぱり、つけもの石はさっぱり売れません。
「こうなればもう、やぶれかぶれだ!」
 男は拾ってきた石の中からきれいなのをひとつ、ていねいにふろしきにつつむと、立派な宿屋にあがりこみました。
 男はさんざん贅沢をして、最後は宿代をふみたおして逃げるつもりです。
「おほん。これは大事なものだから、だれもさわらんでもらいたい」
 男は石の入ったふろしきづつみを床の間におくと、酒とごちそうをたらふく食べました。
 さて次の朝。
 男がふろに入っている間に、宿のおかみさんが掃除にきました。
 そして床の間のふろしきづつみを、おきかえようとしたときです。
 むすび目がとけて、石がゴロッと転がり出ました。
 するとその石が、朝日にピカピカと光り輝くではありませんか。
 おかみさんはビックリして、すぐさま主人に知らせました。
「お客さんが、大きな金剛石(こんごうせき→ダイヤモンド)をお持ちです。ゆずりうけて、うちの宝物にしましょう」
「うん、そうしよう」
 さっそく主人は、男にたのみました。
「どうか、この石を千両(せんりょう→七千万円)でおゆずりください」
「はあ?」
 男は、あっけにとられました。
 ただでひろってきた石ころが千両だなんて、いくらなんでも高すぎます。
「そんな値段では、とても売れません」
 男は、『これは拾ってきた物です』と、正直に言うつもりだったのに、主人は勝手に勘違いして値をつりあげました。
「では、一万両(→七億円)ではいかがでしょう?」
「いやいや、だから、そんな値段ではとても」
 男がうろたえると、主人はますます勘違いして、
「それでは思い切って、二万両(→十四億円)でどうでしょう?」
と、大変な値をつけました。
「よし、売った!」
 男は大喜びで、二万両をかついで我が家へ飛んで帰りました。
 ところが村の様子がすっかり変わっていて、我が家があとかたもありません。
 畑にいた人にたずねると、百年も前に男が江戸へ出かせぎにいったきりで、おかみさんはとっくに死んでしまい、お墓に入っているとの事です。
「せっかく大金持ちになって帰ってきたというのに。せめて、墓まいりをしてやろう」
 男がお墓にいくと、草がぼうぼうです。
「まずは、草むしりだ」
 男が草をむしりはじめると、
「いたたたたっ」
と、声がしました。
「へんだなあ? 草がものを言うわけがないし、気のせいだろう。もっとまとめて、引っこ抜いてやるか」
 男がひとまとめにした草を、力まかせに引き抜こうとすると、
「お前さん、あたしの大事な髪の毛を抜いて、どうする気だい! ねぼけないでおくれ」
と、聞き覚えのある、おかみさんの声がしました。
「あれ? おれのかみさんは、とっくに死んだはずだが?」
 男が目をこすってみまわすと、そこは我が家のえんがわでした。
「あちゃー。どうりで話がうますぎるとおもったら、昼寝の夢か」
 男はあくびまじりに、大きなためいきをつきました。

おしまい

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