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2008年 5月6日の新作昔話
ロンドン市長のディック
イギリスの昔話
むかしむかし、イギリスの田舎町に、ディックという子どもがいました。
お父さんもお母さんもいなく、かわいそうなみなしごでした。
あるとき、親切なおじさんが、
「こんな田舎にいては駄目だ。お前はロンドンで働きなさい。わたしが連れていってあげよう」
と、いってくれたので、ディックは喜んで馬車に乗せてもらい、ロンドンにやってきました。
そして一生懸命働くところを探しましたが、だれもみなしごのディックをやとってはくれません。
お金も使い果たし、食べる物も泊まるところもなく、疲れ切ったディックが大きな屋敷の門の前に倒れていると、屋敷の主人のフィッツウォーレンさんが気の毒に思って、ディックを召し使いにやとってくれたのです。
ディックはせっせと働いたので、家の人たちにとても可愛がられました。
すると、一緒に働いている女中がヤキモチをやいて、ディックに色々と意地悪をしましたが、
「ディック、頑張るのですよ」
と、この屋敷のおじょうさんのアリスが、いつもやさしくなぐさめてくれたのです。
ディックは幸せでしたが、でもたったひとつ、困ったことがありました。
それはディックの屋根裏の部屋に、ネズミが出ることです。
そこでディックは、町で捨てネコを拾ってきて飼いました。
ネコはすぐに、部屋のネズミを退治してくれました。
ディックは自分の食べ物をネコに食べさせて、大切に育てました。
ところが、それを知った女中が、
「召し使いのくせにネコを飼うなんて、なまいきだわ!」
と、ディックに内緒でネコを連れ出し、
「このネコが、いたずらをして困ります。どこかへ連れて行ってください」
と、知り合いの船長にわたしてしまいました。
大切なネコがいなくなった理由を知ったディックは、
「こんなひどい女中のいる家で、働けるものか!」
と、屋敷を飛び出しました。
そしてあてもなく町を歩いていると、教会の鐘の音が、
♪負けるな、ディック
♪くじけるな、ディック
♪頑張れば
♪いまに市長になれるんだ
そんなふうに、聞こえてきました。
「そうだ、頑張ればぼくだって、ロンドン市長になれるんだ」
ディックは思いなおして、屋敷に引き返しました。
そして今まで以上に、まじめに働きました。
それから数ヶ月たった、ある日のこと。
一人の男が、ディックをたずねてきました。
それはいつか女中が、ディックのネコをわたした船長でした。
船長は、にこにこして、
「やあ、きみがディック君だね。きみのネコが売れたから、お金を届けにきたよ」
と、金貨のいっぱいつまった袋を、ディックに差し出しました。
「えっ? ネコがこんな大金に?」
びっくりしたデイックが、船長にわけをきくと、
「わたしは、あのネコを船に乗せて航海に出たんだが、途中で海が荒れて、見しらぬ島に流れついたんだ。ところがこの島は、ネズミが多くて困っているという 話でね。わたしはさっそく、あのネコにネズミを退治させたよ。すると王さまは大変喜んで、その不思議な動物をぜひゆずってほしいとおっしゃってね、ネコと ひきかえに、この金貨をくださったのだ。これはみんな、きみのものだよ」
船長はそういって、帰っていきました。
突然にお金持ちになったディックは、そのお金で学校へいき、一生懸命勉強して、ついにロンドン市長になったのです。
そして屋敷のおじょうさんだったアリスも、ディックの奥さんになって、市民の母のようにしたわれました。
1780年頃に戦争で焼けてしまいましたが、ロンドンの郊外には、ネコを抱いたディック市長の銅像が立っていたそうです。
おしまい
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