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2008年 6月5日の新作昔話

不思議な五人の小人

不思議な五人の小人
アイルランドの昔話

 むかしむかし、ある小さな村に、グリーシという若者がすんでいました。
 グリーシは、いつもどこか遠くへ旅がしたいと思っていました。
 今日もグリーシは、村はずれの古いとりでの上で、ぼんやり海の向こうをながめていました。
 グリーシが帰ろうと腰を上げた時、とりでの中から、笑い声が聞こえてきました。
 のぞいて見ると、小人たちです。
 親分らしい小人が、声をはりあげました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
 すると、小人の前に馬が現れたのです。
 グリーシも、さっそくまねてみました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
 やっぱり、馬が現れました。
「こいつは、おもしろい」
 グリーシは小人たちにならって、馬にのりました。
 馬は、ぐんぐん走り出しました。
 海辺につくと、小人たちがさけびました。
「とべ!」
 グリーシも、まねてさけびました。
「とべ!」
 まるで羽が生えたように、馬は空をとびました。
 海も、山も、ひとっとびです。
 グリーシは、下に見えるお城がフランスの王さまのお屋敷と聞いて、びっくりしました。
「もう、こんなに遠くまで、来てしまったのか!」
「いいか、グリーシ。おれたちについて来たからには、きもっ玉をすえて、よく聞け。あそこから、お姫さまをさらうのさ!」
「ええっ!」
「今日は、結婚式だ。お姫さまは、きらいな男と結婚させられるから悲しんでいる。だから助けてやるんだ」
 小人も、馬も、人間の目には見えないらしく、無事にお城へのりこむことができました。
 中ではちょうど、結婚式の最中でした。
 グリーシはお姫さまをひと目見て、すっかり好きになってしまいました。
 それで、
「さらえ!」
と、いう声を聞くと、一番先にお姫さまをさらいました。
 おどろきあわてる王さまたちをあとに、馬はアイルランドへもどって行きました。
 親分が、にやりとわらって言いました。
「グリーシ、ご苦労」
 とりでについて、グリーシはたずねました。
「これから、お姫さまをどうするんだい?」
「決まっている。おれのお嫁さんにするのだ」
「なんだって!」
 ようやくグリーシにも、小人のたくらみがわかりました。
 うつくしいお姫さまを、よこどりしようというのです。
「そんなことをさせるものか!」
 グリーシは、とっさに胸の十字架をつき出しました。
 これには、小人たちもかないません。
「うー、苦しい。そいつをどけろ!」
 小人の親分が逃げる時、お姫さまの頭をたたいて言いました。
「お返しに、口がきけなくしてやったぞ!」
 小人が言った通り、お姫さまは口がきけなくなりました。
「大変なことになってしまった。いったいどうしたらいいのだろう」
 こまったグリーシは、牧師さんに相談しました。
 わけを聞いた牧師さんは、お姫さまの世話を、こころよく引きうけてくれました。
「なんとかして、元通り、しゃべれるようにならないものだろうか」
 グリーシは一生懸命働いて、お金をためて、国中の医者にお姫さまをみてもらいました。
 でも、みんな首をよこにふるばかりです。
 ある日、グリーシがとほうにくれて、とりでの上で考えていると、またあの声が聞こえてきました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
 グリーシも、まねてみました。
「おれの馬! おれのたづな! おれのくら!」
 それを知った小人たちは、グリーシに言いました。
「そうそう、きさまに、まねをされてたまるか!」
 小人たちの馬は現れても、グリーシの馬は現れません。
「おれたちは、お前みたいなまぬけじゃないんだ」
「そうとも!」
 小人たちは、口ぐちにからかいました。
「お姫さまは、しゃべれるようになったかい?」
「あははは。なるもんか。方法は、たった一つしかないんだからな」
「そう、そう。こいつの家の入り口に生えている草を飲めば、なおるのに」
「そんなことさえわからずに、まごまごしてる」
「まったく、人間なんてあほうぞろいだ」
「あっはっはっは」
 そう言うと、小人たちは笑いながら、とびさっていきました。
「そうか! 家の前の草を、飲ませればいいのか」
 グリーシは、さっそく草をせんじて、お姫さまに飲ませました。
 すると、お姫さまはふかいねむりにおちていきました。
「本当に、声が出るようになるだろうか」
 グリーシは、心配でたまりません。
 長い時間がすぎて、朝の光がお姫さまの顔にふりそそいだ時。
 お姫さまの目がパッとあいて、口がかすかにうごきました。
「グ、リ、イ、シ・・・」
 グリーシは、お姫さまをだきしめました。
「声が出た! お姫さまの声が出た!」
 喜ぶグリーシに、お姫さまはもう一度口を開きました。
「グリーシ。わたしは、あなたが大好きよ」
「お姫さま! よかった、本当によかった!」
 そして二人は、しあわせな結婚をしました。

おしまい

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