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2008年 6月8日の新作昔話

盲目

盲目
江戸小話

 小雪がまう、寒い冬の夕方の事です。
 ある橋を、ご隠居さんが銭湯へ行くために渡ろうとすると、橋の上に一人の乞食が、しょんぼりと頭を下げているではありませんか。
 おまけに、乞食のそばに寄りそうように、
《盲目(もうもく→目の見えないこと)》
と、かかれた札を首に下げた犬が、うなだれて座っていました。
「なんとも、かわいそうなことよ。盲目の乞食とは」
 あまりにもあわれな乞食の姿を見たご隠居さんは、小銭をだして、乞食の前においてあるかごの中へ投げ入れてやりました。
「気を落とさず、がんばりなさいよ」
「ありがとうごぜえます」
 数日後、ご隠居さんが、また銭湯へ行こうと橋を通ると、先日と同じように乞食と犬が寒そうに座っています。
 心のやさしいご隠居さんは、また小銭を投げてやりました。
 そんなわけで、ご隠居さんはその橋を通るたびに、小銭を恵んでやりました。
 ところがある日のこと、ご隠居さんは急な用を思い出し、橋の上に乞食が座っているのも忘れて、急いで通り過ぎようとすると、あの乞食が立ち上がってご隠居さんを追いかけてくるではありませんか。
 そしてご隠居さんの前に立って、こういいました。
「ご隠居さま、いつもありがとうごぜえます。だが、今日はお恵みいただけねえのですか?」
 盲目だと思っていた乞食が、まるで目の見えるように追いかけてきたのにびっくりしたご隠居さんは、乞食にたずねました。
「おや? お前さんは、目が見えなかったのじゃないのかい?」
「いえいえ、あっしは盲目じゃござんせん。目が見えないのはあの犬でして。ほれ、ちゃんと犬の首に《盲目》と書いた札をかけているじゃあ、ありませんか」
 こういわれたご隠居さんは、あきれはてて、ものもいえませんでした。

おしまい

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