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2008年 6月13日の新作昔話
土まんじゅう
グリム童話
むかしむかし、あるお金持ちの農民が、自分の土地をながめていました。
土地ではどの作物も立派に育っており、牛やブタなどの家畜もいっぱいです。
それを見て、農民は満足そうにうなずきました。
そのとき、農民の心の中へ、だれかが声をかけてきました。
「お前は今まで、人に親切にしたことがあるか? 神の教えを守って、欲張らずにほどほどに暮らしていたか?」
それを聞いて、農民はびっくりしました。
農民はいままで、お金を増やすことばかりしてきて、人へ親切にしたことは一度もなかったのです。
(わしは金持ちになったが、その代わり、心が貧しくなってしまったようだ)
お金持ちの農民は、自分の人生に、今になって後悔しはじめました。
そこへ、隣の貧しい農民が麦を借りにきました。
いつもなら、
「貧乏人が、あつかましい。とっとと帰れ!」
と、冷たく追いかえすところですが、お金持ちの農民は気前よく麦とお金を与えて言ったのです。
「この麦はあげよう。お金も返さなくてもいいよ。だけど、お願いがあるんだ」
「お願いとは?」
「わしは今まで、神を信じずにお金だけを信じて生きてきた。そんなわしだ、もしかすると死んだ後、悪魔が来て地獄へ連れて行くかもしれん。だからわしが死んだら、わしの墓を三晩、見張ってくれないだろうか」
「わかりました。必ず約束は守ります」
しばらくして、お金持ちの農民は死んでしまいました。
貧しい農民は約束通り、お金持ちの墓を見張ることにしました。
夜、人が寝静まる頃になると、農民はお金持ちの墓の土まんじゅう(どまんじゅう→人を埋めて盛りあがった土)に腰掛けて、悪魔が来ないように見張りました。
ふた晩は何事もありませんでしたが、三晩目に出かけていくと男の人がいたのです。
「あなたは、何者ですか?」
農民がたずねると、男の人は答えました。
「仕事のなくなった、元兵隊です。夢の中に老人が現れて、『農民と一緒にわしの墓を見張ってほしい』といって来たのです」
それを聞いた農民は、元兵隊の夢に現れた老人は、お金持ちの農民だと思いました。
「わたしがその農民です。では、一緒に墓を見張りましょう」
そこで二人して、墓を見張ることにしたのです。
しばらくすると鋭い風の音がして、突然、悪魔が現われました。
そして、びっくりする二人に恐ろしい声で言いました。
「そこをどけ! 今からその墓の男を地獄へ連れて行くのだ」
農民はびっくりして腰を抜かしましたが、しかし兵隊はひるみません。
持っていたナイフを抜くと、悪魔に向かっていいました。
「おれは墓を守る約束をした。ここを動かんぞ!」
「ぬぬぬっ。・・・では、お前たちに金貨をやろう。だから、そこをどいてくれるか?」
悪魔の提案に、兵隊は答えました。
「いいだろう。では、おれのはいている靴いっぱいの金貨をもらおう。出来るか?」
「なんだ。それっぽっちでいいのか。よし、すぐに持ってくるから待ってろ」
悪魔は、金貨を取りに帰りました。
その間に兵隊は、靴の底をナイフで切り取って、茂みの上に置いたのです。
しばらくして悪魔は帰ってくると、用意した金貨を靴の中に入れはじめました。
しかし、金貨は靴の底からどんどんこぼれていき、いつまでたってもいっぱいになりません。
「おかしいな。こんな小さな靴ぐらい、すぐにいっぱいになるはずだか?」
そうしているうちに、ついに夜が明けてしまいました。
「しまった! 夜が明けてしまった!」
まわりをてらす朝日に気づいた悪魔は、悲鳴をあげながら逃げていきました。
そしてそのすぐ後、朝日につつまれたお墓の中からお金持ちの姿をした光る物が、ゆっくりと空へ昇っていったのです。
こうして、お金持ちの農民の魂は無事に天国へ昇り、農民と兵隊は悪魔の残していったお金で、裕福な暮らしを送ったということです。
おしまい
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