きょうの新作昔話
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2008年 6月17日の新作昔話

よくばりだんなと、とんち男

欲張り(よくばり)だんなと、とんち男
中国の昔話

 むかしむかし、ある村に、欲張りで意地の悪い、金持ちのだんながいました。
 村の人たちは、時々、このだんなからお金を借りることがあります。
 ところがだんなは、貸したお金に高い利子をつけて、返してもらうときには貸したお金の何倍もとるのです。
 それで村の人たちは、みんなこのだんなをうらんでいました。
 さて、この村に、『とんち男』とよばれる、かしこいお百姓さんがいました。
 このとんち男も、だんなに借りたお金がなかなか返せなくて困っていました。
 ある日の事、だんながお金をとりにやってくるというのです。
 それを知ったとんち男は、いそいで肉と魚と野菜を、なべで煮ておきました。
 お昼に、だんながやってきました。
「さあ、どうぞこちらへ」
 だんなを家に入れたとんち男は、おかみさんにむかって言いました。
「早く、肉と魚を野菜を買っておいで。だんなさんにごちそうするんだから」
 それを聞いて、だんなはにっこり。
 やがておかみさんは、肉と魚と野菜を買ってきました。
 そして台所へ行ったかと思うと、すぐに、
「はい、おまちどおさま」
と、料理のぐつぐつ煮えたなべを持ってきたのです。
「おや? なんて早いんだ。いったいどうやって、煮たんだね?」
 だんながびっくりして聞くと、とんち男は、わざとひそひそ声で言いました。
「だんなだから教えますが、じつは、これは魔法のなべなんです。何でもほうり込みさえすりゃ、たちどころに煮えちゃうんでして」
「ほほう、そいつは便利ななべだな。どうだい、そいつをわしにくれないか?」
 だんながそう言うと、とんち男は、わざと困った顔をして言いました。
「これはむかしから、わたしの家に伝わる家宝でして。いくらだんなでも、ちょっとおゆずりできませんが」
「では、なべをくれれば、貸した金はなしにしてやるぞ。どうだ?」
「いや、その、それは・・・」
「じゃ、金を全部返せ! いますぐ返せ!」
「・・・うーん、仕方ありません。だんなにゆずりましょう。だけどこの魔法のなべは、『どんなことがあっても、けっして家から持ち出すな』と、言い伝えられています。それでもいいですか?」
「ああ、いいとも、かまわん」
 なべを受け取っただんなは、大喜びで家に帰って行きました。
「えっへへ。うまくいったぞ」
 とんち男は、帰って行っただんなに、あかんべーをしました。
 さて、家へ帰っただんなは、さっそくお客をよぶことにしました。
「へえ、あのよくばりがごちそうするって? おかしなことがあるもんだ」
 みんな首をひねりながら、ぞろぞろやってきました。
 お客がそろったところで、だんなが得意そうに言いました。
「今日は、わしの家に代々伝わる、世にも珍しい魔法のなべでごちそうを作ってさしあげようぞ」
 だんなはなべの中に、肉、魚、野菜を、どんどん投げ込みました。
「こうやってほうり込みさえすれば、火にかけなくても、たちどころにおいしく煮えるのじゃ。さあ、遠慮せずに、じゃんじゃん食べてくだされ」
「そいつはすごい」
「はやく煮えないかな・・・」
「・・・・・・」
「・・・」
 みんな、なべを取り囲んで、じっと待っていますが、いつまで待っても煮えてきません。
「・・・あれ? おかしいぞ?」
 だんながあせっているのを見て、お客たちは大笑い。
「あははははっ、とんだ魔法のなべだ」
 すっかり恥をかいただんなは、かんかんに怒りました。
「あいつめ! 今から行って、ひどい目にあわせてやる!」
 やがて、顔をまっ赤にしながらやってくるだんなの姿を見て、とんち男はおかみさんに何か耳うちをしました。
 それから急いで塩の入った袋を持つと、やぎを一頭つれて家の後ろにかくれました。
 そこへ、だんながとびこんできました。
「あれ、まあ、だんなさん。そんなに赤い顔をして、どうしました?」
「どうしたもへちまもあるもんか! お前の亭主はどこだ!」
「はい、ちょっと、都まで塩を買いに」
「都までだと! ここから何万里もあるんだぞ、このうそつきめ!」
「あら、本当ですよ。ものすごく足の早い、万里(ばんり)やぎに乗って行ったので、あと一時間もすればもどるでしょう。でもお急ぎなら、もっと早く帰るように言いましょうか?」
「そうしろ!」
 おかみさんは台の上に三本のせんこうを立てて、何かおまじないの言葉をブツブツとなえはじめました。
 それを聞いたとんち男は、急いで表に回ると、汗をふくまねをしながら、部屋に入ってきました。
「おい、おい、何の用だい? こんなに急がせて。ああ、くたびれた」
 だんなは、やぎに乗ったとんち男を見てびっくり。
「おや、これはだんなさん。ああ、そうそう、あのなべはいかがでしたか。家から持ち出してしまったので、魔法の力が消えないかと心配していたのですが?」
「いや、その。・・・それより、それが、足の早いという万里やぎか」
「ええ、そうですとも。ほら、これがさっき、都まで行って買ってきた塩ですよ」
 とんち男はなべのすみをまぜて、わざと黒っぽくした塩を見せました。
「なるほど、このあたりの塩とは違うな。こりゃ、たしかに都の塩だ」
 だんなは、その万里やぎがほしくなりました。
「わしもそいつに乗って、都へ行ってみたいものだ。ぜひ、やぎをゆずってくれ。金貨十枚でどうじゃ?」
「はい、それはいいですが。でも、だんなさん。こいつはわがままなやぎでして、きれいに体をふいてやったあと、ていねいにおいのりをして、『乗ってもよろしい』と、やぎがうなずかないかぎり、こいつは走りませんよ」
「よい、よい。ほら、金貨十枚だ。やぎはもらっていくぞ」
 家に帰っただんなはさっそく、やぎの体をきれいにふいてやり、おいのりをはじめました。
「さあ、早くうなずけ! 『乗ってもよろしい』と、早くうなづけ!」
 だんなが何度おいのりしても、やぎは知らん顔です。
「ええーい。もう、がまんならん!」
 だんなは、やぎに飛び乗りました。
 するとやぎは、だんなを振り落とすと、どこかへ逃げてしまいました。
「あいたたた! むむっ、あやつめ、また、だましおったな。もうかんべんならん!」
 だんなは力持ちの召使い三人をよんで、命令しました。
「あの大うそつきめをしばりあげて、川へほうりこんでしまえ!」
 さっそくとんち男はつかまって、なわでグルグル巻きにしばられると、川へかつがれていきました。
 その途中、とんち男は三人に頼みました。
「おい、頼むから、山にはすてないでくれよ。トラに食われるのはいやだからな。すてるなら川にしてくれ」
「そうか、そうか。それならお前がいやがっている、山へすててやろう」
 三人は、とんち男を山にすてました。
 しばらくすると、腰のまがった年寄りのヒツジ飼いが通りかかりました。
「おや? そんなかっこうして、どうしたね?」
「ああ、腰のまがったのをなおしているのさ。じいさんもやってみるかい?」
「はいはい、それで腰がなおるのなら」
 ヒツジ飼いは、とんち男のなわをはずしてやると、今度は自分がグルグル巻きになりました。
「じゃあ、ごゆっくり」
 とんち男はヒツジをつれて、だんなのうちへ行きました。
 だんなは、とんち男を見てびっくり。
「あれっ? お前は、川で死んだはず?」
「はい。ですが、『まだ死ぬのは早い』って、地獄のえんまさまが帰してくれたんですよ。おまけに、おみやげのヒツジをこんなにたくさん。それに今度きたち、もっとすごい宝物をくれる約束です。だんなさん、お願いですから、また、川へなげこんでくださいよ」
 それを聞いただんなは、自分もやってみたくなりました。
「よし、わしもえんまさまのところへ行って、何かもらってこよう」
 だんなはさっそく川へ行くと、ザブーンと飛び込みました。
 よくばりだんなはそれっきり、帰ってはきませんでした。

おしまい

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