きょうの新作昔話
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2008年 6月27日の新作昔話
なわ一本で大金持ち
スウェーデンの昔話
むかしむかし、ある大きな湖のそばに、貧しいお百姓さんが三人の息子とくらしていました。
そのお百姓さんが病気で死んだので、のこった財産を三人でわけることになりました。
一番上の息子は、
「おれは、家をもらうよ」
と、言って、さっさと家をとってしまいました。
「それなら、おれは家の中のものをもらうよ」
二番目の息子は、家具や道具を全部とりました。
「ぼくは何をもらえるの?」
一番下のぺールが言うと、兄さんたちはわらって言いました。
「そこらをさがせよ。何か見つかるさ」
しかし、何一つ残って残っていません。
ペールは、ようやく部屋のかたすみに、なわを一たば見つけました。
「これだって、何か役に立つさ。じゃあ兄さんたち、さようなら」
ぺールはなわを持って、家をとび出して行きました。
ぺールは湖のほとりにすわって、考えました。
「これから、このなわだけで、どうやってくらそう?」
すると近くの木の枝に、リスがピョンと、とんできました。
それを見たぺールは、いいことを思いつきました。
「そうだ、動物を捕まえよう。皮を売って、お金をもうけるんだ」
ペールはなわで、リスを捕まえました。
「よし、こいつを殺して・・・。だめだ」
リスのかわいい目を見ると、とても殺す気にはなれません。
そこでペールは木の枝でかごを作って、リスを入れました。
すると今度は、ウサギがとび出してきました。
「ほいきた。これは運がいいぞ」
ウサギも、みごとに捕まえました。
「もっと、獲物はいないかな?」
探していると、岸辺のやぶの中から、
ズシン、ズシン!
と、大きな足音が聞こえてきました。
見ると、大きなくまです。
つけて行くと、くまはほらあなにもぐりこんで、いねむりをはじめました。
「よーし、あのくまも捕まえよう。でもそれには、丈夫なつながいるぞ」
ペールはなわをより合わせて、太いつなを作ることにしました。
ちょうどその時、湖の主の妖怪のネックが、水から頭を出してぺールを見つけました。
ネックはペールの様子を、じっと見ていました。
見ていると、つながどんどん長くなっていきます。
「あの長いものは、いったい何だ? 何に使うのだろう?」
ネックはすみかにもどると、息子をよんで言いました。
「岸辺にいるやつが、何をしているのか聞いてこい」
そこで息子は水面にあがると、ペールに声をかけました。
「おい、何をしてるんだい?」
いきなり声をかけられたので、ペールはびっくりしてしまいました。
目の前に、かわいい子どもが立っています。
(ははあ、こいつは妖怪ネックの子どもだな。それなら用心しないとな)
ネックにはうまい返事をしないと、大変なことになります。
それは、すきを見せると、たちまち水の中へ引きずりこまれてしまうからです。
ちょっと考えたペールは、ネックの子どもに言いました。
「ここの湖をしばる、丈夫なつなを作っているのさ」
「えっ! 湖をしばるの?」
「そうさ。もうすぐ完成するぞ」
おどろいたネックの子は、いそいで父さんネックに知らせました。
「そいつは大変だ。お前、もう一度行って、あいつを木登り競争にさそえ。そしてあいつが疲れたところを、水の中へ引きずり込むんだ」
「うん、わかった」
ネックの子はぺールのところへ行くと、近くの木を指さして言いました。
「おいらと、木登り競争をしないか?」
「今は仕事中でいそがしいから、ぼくのかわりに、小さい弟じゃどうだい?」
「いいとも」
するとぺールは、捕まえていたリスに言いました。
「おい、小さい弟。ぼくのかわりに、木登り競争をしておくれよ。じゃあ、よーい、ドン!」
ペールが手を離すと、リスはあっという間に、木のてっぺんにかけのぼりました。
ネックの子も頑張ったのですが、リスの勝ちです。
負けたネックの子は、しょんぼり帰りました。
すると、父さんネックが言いました。
「木登りがだめなら、今度はかけっこをしろ。あいつが疲れたところを、水の中へ引きずりこめ!」
「うん、わかった」
ネックの子はペールの所へ行くと、森の広場をさして言いました。
「今度は、かけっこをしよう」
「今は仕事中。かわりに、中くらいの弟でもいいかい?」
「いいとも」
ぺールは、つかまえていたウサギに耳うちしました。
「いいかい、逃がしてやるから、つかまらないように一生懸命走れよ」
よーい、どん!
はなされたウサギは、すごいスピードで走っていきました。
ペールの子も頑張ったのですが、ウサギには勝てません。
「父ちゃん、また負けちゃったよ」
「何! また、負けたか。うーん、それなら今度はすもうだ。投げ倒して、そのまま水の中へ引きずりこめ!」
「うん、わかった」
ネックの子はペールの所へ行くと、言いました。
「ねえ、もう一回だけ勝負だ。今度はすもうをしようよ」
「今は仕事中。かわりに、ぼくのおじいさんでもいいかい」
「いいとも」
「おじいさんなら、ほら、あそこでねてるよ。もしおきなかったら、お尻を蹴り飛ばしてもいいよ」
ネックの子は、ほらあなでねているくまのところへ行きました。
「ねえ、すもうをしようよ」
いくら呼んでも、くまはおきません。
そこでくまのお尻を、ポーンと蹴り飛ばしました。
するとくまは怒って、ネックの子を投げ飛ばしました。
投げ飛ばされたネックの子は、泣きながら父さんネックの所へ帰りました。
「あーん、父ちゃん、もうだめだよ。あの子の小さい弟や、年寄りのおじいさんにも負けたんだもの、あの子と何やっても、絶対勝てないよ」
「そうか。それじゃ、どうしたら湖をしばらないでくれるか、丁寧に聞いてこい」
「うん、わかった」
ネックの子は恐る恐る、ぺールのところへやってきました。
「おや、またきたな。まだ何かやる気かい?」
「いいえ、ちがいます。あの、どうしたら湖をこのままにしておいてくれるか、聞きにきたのです」
「そうか。そうだなあ。じゃあ、このぼうしに金貨を一杯くれたら、そっとしといてあげるよ」
「ぼうしに一杯の金貨ですね」
ネックの子はさっそく、金貨をとりに帰っていきました。
「よし、いまのうちに」
ぺールは急いで、地面に深い穴をほりました。
それからぼうしに大きな穴を開けて、地面の穴の上におきました。
しばらくすると、ネックの子が金貨の入った袋を持って、もどってきました。
「では、ぼうしに金貨を入れますね」
チャリーン、チャリーン、チャリーン、チャリーン・・・。
ネックの子がぼうしに金貨を入れますが、いくら金貨を入れても、ぼうしはいっぱいになりません。
「おかしいな、金貨が足りないぞ」
ネックの子は、何回も金貨の袋をとりにもどりました。
そして、何回もぼうしの中に金貨を入れましたが、でも、ぼうしはいっぱいになりません。
とうとうネックの子は、泣きながら言いました。
「もう、これでかんべんしてよ。金貨はおしまいなんだ」
「そうか。じゃあ、かんべんしてやろう」
こうして大金持ちになったぺールは、いそいで家へ帰りました。
ペールの持っている金貨を見て、二人の兄さんはびっくりです。
「お前、どうやって、こんな大金を手に入れたんだい?」
ぺールは、すまして答えました。
「ほら、このなわで、リスやウサギを捕まえて、それでもうけたのさ」
「ええっ! なわ一本だけでかい? たのむ、そのなわをくれ! 家や家具は全部お前にやるから」
「うん、いいよ」
兄さんたちは、なわを手にすると、喜んで出かけて行き、二度と帰ってはきませんでした。
さて、こうして家と家具と大金を手に入れたぺールは、可愛いお嫁さんをもらって、幸せに暮したということです。
おしまい
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