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2008年 7月9日の新作昔話

幽霊の絵馬

幽霊の絵馬
京都府の民話

 むかしむかし、京都の革堂(こうどう)とよばれる寺の近くに、質屋の八左衛門(はちざえもん)という男がすんでいました。
  この男は金持ちでしたが、強欲な為にみんなから嫌われていました。
  だから子どもが生まれても、子守りのなりてがありません。
  そこでやっと、とおい近江(おうみ→滋賀県)の農家から、フミという子をやとったのです。
  フミは十三歳でした。
「これを母だと思って、さびしくてもこらえておくれよ」
と、母親からもらった手鏡(てかがみ)をだいて、知らない町へやってきたのです。
  フミは、その日から子どもの世話をしました。
  子どもがむずかると、おんぶして家のまわりをあやして歩きました。
  すぐ近くの革堂という寺は観音さまをまつっていて、西国三十三ヶ所の寺のひとつでしたので、巡礼(じゅんれい)の人でいつもお祭りみたいににぎわっていました。
  白い着物姿の巡礼たちは、観音さまの前で鈴をならしてご詠歌(えいか→巡礼または仏教信者などがうたう、和歌・和讃にふしをつけたもの)をとなえます。
♪はなーをーみて
♪いーまーはー
♪のぞみーもー
♪こおーどーうのー
♪にわーのーちぐさーもー
♪さかりーなーるーらん
  ご詠歌は仏さまをたたえる歌ですが、それを聞いたフミは、いっぺんに好きになったのです。
  そこで毎日、子どもをおぶってに革堂へかよいました。
  そのうちフミは、いつのまにか背中の子をあやしながら、ご詠歌を口ずさむようになりました。
  ところがこれを知った八左衛門が、かんかんになって怒りました。
「うちの寺は宗派が違うんやで。それに、そんないん気くさい歌は大嫌いや。革堂なんかにいくから、そんな歌おぼえるんや。革堂へいったり、ご詠歌を歌ったりしたら、承知せえへんで!」
「・・・はい」
  フミは言いつけを守って、がまんしました。
  つらいことがあると、母親の手鏡を見ましたが、でも鏡は何もいってくれません。
「ああ、ご詠歌をききたい。ご詠歌は、近江のお母ちゃんの声を聞いてるようだもの」
  やがてフミは我慢できずに、革堂へいってしまったのです。
  お参りの人のご詠歌に小声であわせていると、悲しいこともわすれました。
  でも、八左衛門にはないしょでした。
  やがて寒い冬がきて、フミが家の中で子守りをしていたら、とつぜん背中の子どもが、たどたどしい口ぶりで、ご詠歌を歌い出したのです。
  いつも聞いていたので、覚えてしまったのです。
  それを聞きつけた八左衛門は、まっ赤になってとんでくると、フミをはだかにして庭にひきずり出しました。
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
  フミが泣いてあやまっても、八左衛門は許しません。
  八左衛門はフミに、氷のように冷たい水を頭からあびせました。
  そしてフミを納屋(なや→物置)に放り込み、外から鍵をかけて、そのまま寝てしまったのです。
  次の日の朝、ふと目の覚めた八左衛門は、フミの事を思い出しました。
  あわてて納屋を開けると、はだかのフミはもう、こごえ死んでいたのです。
「どないしょう。世間に知れたら、大変や」
  そこで夫婦は納屋に穴をほり、フミの死体をうめてかくしました。
  そしてフミの両親には、
「フミは好きな人が出来て、家出をした」
と、うその知らせをしたのです。
  フミの両親は、近江からとんできました。
  でも、八左衛門は、
「こっちは子守りがいなくなって困っている。どうしてくれる!」
と、逆に文句を言い出す始末です。
  両親は、京の町を探し回りました。
  そして道行く人に、
「そう言えば、よく革堂という寺で、子守してはりましたなあ」
と、聞いたので、二人は革堂の観音さまの前で、ご詠歌をとなえておがみました。
「どうか、フミの居所を教えてください」
  二人はそのままお堂にとまりこみ、おこもり(→神仏に祈願するため、神社や寺にこもること)をしました。
  すると真夜中、両親は、だれかがいるような気がして目を覚ましました。
  暗闇に目をこらすと、お堂のすみにフミのかげが立っているのです。
「フミ!」
  よびかけようとしたけれど、二人とも声になりません。
  近寄ろうにも、体がしびれて動けません。
  すると、フミが口を開きました。
「お父ちゃん、お母ちゃん。わたしはもう、この世にはいないの。わたしは主人に殺されて、納屋の冷たい土の中にうめられたの。ここは寒い。ここは暗い。どうか掘り出して、供養してください」
  そういうとフミの幽霊は、すーっと消えました。
  そしてフミのいた場所には、母親が持たせたあの手鏡がおかれていました。
  フミの両親は奉行所にうったえて、フミの死体を探し出すと、ねんごろにとむらいました。
  そして、この悲しい出来事を忘れないようにと、フミの幽霊姿をそのままの大きさで杉板(すぎいた)にうつしとり、かたみの鏡もはめこんだ大きな絵馬にして、革堂におさめたました。
  もちろん、幽霊に罪をあばかれた八左衛門は、奉行所にひきだされて罰を受けました。
  そして両親は巡礼になって、ご詠歌を歌いながら西国の寺を巡りました。
  このあわれなフミの幽霊の絵馬は、いまも革堂にまつられているということです。

おしまい

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