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2008年 7月18日の新作昔話

お化け車

お化け車
滋賀県の民話

 むかしむかし、近江の国(おうみのくに→滋賀県)の甲賀(こうが)という町に、不思議な物が現れました。
  それは木の車で、夜になるとどこからともなくやってきて、
「ギイッ、ギイッ」
と、音をたてながら、通りすぎていくのです。
「あれはきっと、お化け車にちがいない。お化け車を見た者は、ひどいたたりがあるそうな」
  町の人たちはそう言って、日がくれるとすぐに家の戸を閉めて、めったに外へ出なくなってしまいました。
  ところがこの町に、とても気の強いおかみさんがいました。
「何をびびってんだよ。お化けを見たぐらいで、たたりがあるもんかい。本当にお化けかどうか、あたしがたしかめてやるよ」
と、夜中にこっそり起きだして、表の戸を細めに開けてお化け車が来るのを待っていました。
  するとやがて、
「ギイッ、ギイッ」
と、車のきしむ音が聞こえてきました。
  おかみさんは戸のすきまに目をあて、じっと息を殺して見つめていました。
「あれっ?!」
  おかみさんは、思わず小さな声をあげました。
  髪の毛を背中までのばした白い着物の女が、たったひとつしか車輪のない車に座っていたからです。
  その車は、引っ張る人もいないのに、
「ギイッ、ギイッ」
と、音をたてながら進んで来るのです。
  おかみさんがじっと見ていると、その車が家の前で止まりました。
  すると白い着物の女は、おかみさんにニヤリと笑いかけて、ぞっとするような声で言いました。
「よくも、わたしを見たね。・・・そのつぐないに、お前の赤ん坊をもらうよ」
「なんだって!」
  おかみさんが転がるようにして部屋にもどってみると、さっきまでそこにねむっていた赤ん坊の姿がありません。
「大変だー! だれかー!」
  おかみさんの声をききつけて、だんなや家の者が起きてきました。
「赤ん坊が、赤ん坊が・・・」
  おかみさんの声に、だんなはあわてて外へ飛び出しましたが、どこへ消えたのか、お化け車も赤ん坊もいませんでした。
「とんでもないことを、してしまったよ」
  おかみさんは、だんなに泣いてあやまりましたが、もう手遅れです。
  でも、大切な赤ん坊をあきらめるわけにはいきません。
  おかみさんは泣きながら、自分の気持ちを紙に書いて表の戸に張りつけました。
《悪いのは、車を見たこのわたしです。赤ん坊にはなんの罪もありません。わたしは、どんなひどいたたりでも受けます。地獄へ落ちても構いません。ですから、赤ん坊だけは返してください》
  すると次の晩、あのお化け車がやってきて、おかみさんの家の前で止まりました。
  それを知ったおかみさんは、飛び出したいのを必死でこらえました。
  今度、女の姿を見たら、赤ん坊が殺されてしまうかもしれないからです。
  ところが、張り紙をじっと見ていたお化け車の女は、きゅうに悲しそうな顔になって、つぶやくように言いました。
「なんとやさしい母の心だろう。決して赤ん坊は返すまいと思っていましたが、今度だけは返してあげましょう」
  戸の内側でこれを聞いていたおかみさんは、あわてて自分の部屋へ駆け込みました。
  するとそこには、赤ん坊がいつものようにすやすやとねむっていたのです。
「ありがとうございました」
  おかみさんは遠くなっていく、お化け車のきしむ音を聞きながら、そっと手をあわせました。
  そのときから、この町にはもう二度と、お化け車が来なくなったそうです。

おしまい

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