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2008年 7月22日の新作昔話
離魂病(りこんびょう)
福井県の民話
むかしむかし、越前の国(えちぜんのくに→福井県)に、原仁右衛門(はらにえもん)という人がいました。
家には奥さんと二歳になる男の子がいて、若い女中さんを一人やとっていました。
あるとき仁右衛門は、仕事で京都へ行くことになりました。
そこで奥さんに、
「わしが戻ってくるまで、ふた月はかかるとおもうので、子どもの事をしっかり頼んだよ」
と、言って、出かけていきました。
奥さんは若い女中さんだけでは用心が悪いので、もう一人、年寄りの女中さんにも来てもらうことにしました。
ところが年寄りの女中さんはひどくやせていて、時々、のどをつまらせたようなせきをするのです。
「お前さん、体の方は大丈夫かい?」
奥さんが心配してたずねても、
「はい、せきが出るのは生まれつきで、ほかに悪いところはありません」
と、いうばかりです。
そこでしかたなく、家にいてもらうことにしました。
さて、仁右衛門が出かけて三日ほどすぎた夜ふけのことです。
女中さんのひどくせきこむ声に、奥さんは目を覚ましました。
(やれやれ、これじゃ、とても眠れやしない)
奥さんがイライラしていると、せきこむ声が、やがて苦しそうなうなり声にかわりました。
(どうしたんだろう?)
奥さんは明かりをつけて、女中さんたちの寝ている部屋のふすまを開けました。
すると、まくらもとのびょうぶの下に、何か丸い物があって、コロコロと動き回っています。
(なんだろう?)
不思議に思って明かりを近づけてみると、なんと年寄りの女中さんの頭だったのです。
体はふとんの中にあるのに、首だけがひものようにのびていて、その先にある頭がうなりながら、コロコロ転げ回っているのです。
(ろ、ろっ、ろくろっ首!)
奥さんは、もう少しで悲鳴をあげるところでした。
でも子どもを起こしてはいけないので、じっとがまんすると、もう一度そっと頭を見ました。
年寄りの女中さんはじっと目をつむったままのこわい顔で、まくらもとのびょうぶをヘビみたいにスルスルとのぼっていきます。
奥さんはなんとかして、もう一人の若い女中さんをおこそうとしました。
でも、そんな事には気づかないで、よくねむっています。
そのうちにやっとびょうぶの上にのぼりついたろくろ首は、ころんと向こう側へ落ちました。
とたんに、はげしいうなり声がひびきました。
そしてまた、しわだらけの長い首だけが、びょうぶの上でゆらゆらとゆれています。
奥さんはもうがまん出来ずに部屋を逃げ出して、子どものそばへ行きました。
おそろしくて、体のふるえがとまりません。
「奥さま、何かあったのですか?」
騒ぎに気づいたのか、若い女中さんが目をこすりながら部屋から出てきました。
奥さんはだまって、女中さんたちの部屋を指さしました。
するといつの間に首がもどったのか、年寄りの女中さんも起きてきました。
「奥さま、何かありましたか?」
年寄りの女中さんも、自分が原因だとは知らずに奥さんにたずねました。
「えっ、いや、それは、お前が、ひどくうなっていたので・・・」
奥さんは、それだけいうのがやっとでした。
「すみません。みんなおこしてしまって」
年寄りの女中さんは、何事もなかったように自分の部屋にもどりました。
それからは静かになっても、奥さんは怖くて眠ることが出来ません。
次の朝、奥さんは年寄りの女中さんに昨日の事は何も言わずに、他の理由でひまを出しました。
むかしの人は、自分がろくろっ首であることを知らない人を『離魂病』と言いました。
この『離魂病』は本当の病気の様に、人にうつる事があると言われています。
おしまい
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