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2008年 7月27日の新作昔話
引きさかれた花嫁衣装
東京都の民話
むかしむかし、江戸(えど→東京都)のはずれの村へ、一人のおばあさんがやってきました。
頭はぼさぼさで顔はしわだらけ、そのくせ目だけがらんらんと光っていて、なんとも気味が悪いおばあさんです。
おばあさんの名前は、お松といいますが、なぜこの村へやってきたのかだれにもわかりません。
お松ばあさんは、いつも巡礼(じゅんれい)の姿で鈴を鳴らしながら、家々の戸口に立ってはお経らしいものをとなえて、米や味噌をもらっていました。
秋がきて近くの村々で豊年祭りがさかんになると、祝言(しゅくげん→結婚式)もふえてきます。
美しく着かざった花嫁を中心に、刈り終えたばかりの田んぼの中の道を、しずしずと花嫁行列が進んでいきます。
「今年も、嫁入りの季節になったか」
「あそこの娘さんの嫁ぎ先は、たいした金持ちだそうだな」
村人たちは花嫁行列が通るたびに、家を出てお祝いをしました。
さて、村一番の器量よしといわれた娘が、となり村の庄屋(しょうや)へ嫁入りすることになりました。
大勢の人にかこまれた花嫁が、うれしそうにうつむきながら、お松ばあさんのほったて小屋の前を通りかかったときです。
小屋の中から飛び出してきたお松ばあさんは、いきなり花嫁に襲いかかると、その着物を引きはがしました。
「な、なにをする!」
そばにいた人が、あわててお松ばあさんを引き離しましたが、年寄りとは思えない力でそれをふりほどき、奪いとった花嫁衣装をめちゃめちゃに引き裂きました。
「ひっひひひ・・・」
お松ばあさんは引き裂いた衣装を放り投げると、さっさと小屋の中へひきあげました。
突然の出来事に、行列の人も見物の人もびっくりしてしまい、どうしていいかわかりません。
「なんてことをするんだ!」
「あのばあさん、気でもちがったか!」
みんな口ぐちにさけびましたが、お松ばあさんが気味悪くて、文句を言いに行く人はいませんでした。
それにしても、大事な花嫁がお松ばあさんに襲われるなんて、縁起でもありません。
そこで両方の家で話しあった結果、この祝言は無かったことにしたのです。
それを知ってか知らずか、それからもお松ばあさんは次々と花嫁行列に襲いかかり、花嫁衣装をうばっては引き裂いてしまいます。
そのおかげで祝言をとりやめたり、破談になったりする娘さんが、あとをたたなくなりました。
そこで花嫁行列のときは、わざわざ遠まわりをして、ほったて小屋の前を通らないようにしたり、嫁ぎ先へ行ってから祝言の準備をする家が多くなりました。
ある日のこと、さすがのお松ばあさんも年には勝てず、とつぜん死んでしまいました。
喜んだ村の人たちは、お松ばあさんの葬式もせずに、すぐに墓にうめてしまいました。
「やれやれ、これで安心して花嫁行列が通れるぞ」
と、今まで通り、花嫁行列が死んだお松ばあさんのほったて小屋の前を通ったとき、なんと幽霊になったお松ばあさんが飛び出して花嫁を捕まえると、
「その着物をよこせ!」
と、さけぶのです。
「こりゃ、お松ばあさんのたたりじゃ!」
「葬式もしないで墓にうめたから、幽霊になってさまよっているのだ!」
そこで村の人たちは、お松ばあさんの小屋をこわした後に石のほこらをたてて供養(くよう)したのです。
するとそれから、お松ばあさんの幽霊は出なくなったそうです。
おしまい
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