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2008年 8月7日の新作昔話

お化けの行進

お化けの行進
京都府の民話

 むかしむかし、京の都に、藤原経行(ふじわらのつねゆき)という若い男がいました。
 夜遊びが好きな男で、いつもこっそり屋敷を抜け出しては、町へ遊びに出かけていました。
 ある日の事、経行(つねゆき)が馬をひくお供の者を一人つれて、いつものように屋敷を抜け出すと、むこうからたくさんの松明の明かりが近づいてきます。
「あれは、何の明かりだ? 何が起こったか知らないが、夜遊びにいくのをだれか知り合いの者にでも見つかってはまずいなあ」
 すると、お供の者が気をつかって、
「経行さま。あそこに門があります。扉をしめて、かくれてください。わたしは馬と一緒に、その物陰にかくれて見張っておりますから」
と、いうのです。
 そこで経行は門にかけこむと扉をしめて、小さくかがみこみました。
 そして扉のすきまから、通りすぎていく者たちをうかがっていました。
 すると明かりの中にうかびあがったのは、なんと化け物たちではありませんか。
 一本足でぴょんぴょんはねているもの、手が三本あるもの、顔に目がひとつしかないもの、三つ目のもの、百目のもの、何とも恐ろしい化け物たちが通りすぎていきます。
「最後にいるあいつらは、鬼ではないか」
 経行は、ゴクリとつばをのみこみました。
 すると鬼の一人が、急に立ち止まりました。
「うん? 今の音は? くんくん、くんくんくん・・・。におう。におうぞ。このあたりから、人間のにおいがする」
 近づいてきたオニが門の扉に手をかけましたが、少ししか開きません。
「だめだ。扉があかん。確かにそこにおるのだが、捕まえられん」
 すると、大将らしいオニが、
「どけ、どけ。わしがやってやろう」
と、扉の間から毛むくじゃらの太い手をのばして、うずくまっている経行の頭をつかもうとしました。
「ぬっ、ぬーーーっ。もう少し、もう少しだ!」
 大将のオニが大きなうなり声をあげると、その声に起き出したのか、周りの家々の明かりが次々と灯り始めました。
「しまった! 残念だが、今夜は引き返すぞ」
 大将のオニの声とともに、あわただしく逃げていく化け物たちの足音が聞こえました。
 命びろいをした経行は、隠れていたお供の者と一緒に、ふるえながら屋敷に逃げ帰りました。
 経行が自分の部屋へ入ると、経行の身のまわりの世話をしている乳母がたずねました。
「どうしたのですか? お顔の色がまっ青ですよ」
 経行は、夜遊びに出かけたことを父親にいいつけられることを覚悟しながら、さっきの出来事を話しました。
 すると乳母はおどろきもせずに、静かな声でこういいました。
「いつでしたか、あるえらい尼さんに尊いお経を書いていただき、あなたさまのお着物の襟首にぬいこんでおきました。だからオニたちも手が出せなかったのでしょう。ですが、お経の力がいつも勝るとは限りません。夜遊びも、ほどほどにしないと」
 今回のことですっかりこりた経行は、それからは夜遊びをしなくなったという事です。

おしまい

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