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2008年 8月12日の新作昔話

朱の盤の化け物

朱の盤の化け物

 むかしむかし、旅の侍が一人、村はずれのさみしい野原にさしかかりました。
 このあたりには、『朱の盤(しゅのばん)』と呼ばれる妖怪(ようかい)が出るとのうわさです。
「ああ、日は暮れてくるし、心細いなあ。化け物に会わねばよいが」
 侍が足をはやめると、
「しばらく、お待ちくださらんか」
と、後ろから、呼び止める者がいます。
 侍が恐る恐る振り返ると、そこにいたのは自分と同じような旅の侍でした。
 あみがさをかぶっているので顔はわかりませんが、侍に間違いありません。
「さしつかえなければ、ご一緒願いたいのですが」
「そうですか。実はわしも道連れがほしかったのです。このあたりには、『朱の盤』とかいう化け物が出るとのうわさですから。・・・聞いた事がありませんか?」
 すると、後からきた侍が、
「ああ、聞いたことがありますよ。なんでもそれは、こんな化け物だそうで」
と、言って、かぶっていたあみがさを、パッと取りました。
 するとそこから現れたのは、碁盤(ごばん)の様に角張っている、朱(しゅ)に染まった、まっ赤な顔で、髪の毛はまるで針金の様にごつごつしており、大きな口は耳までさけています。
 そしてひたいには、角が生えていました。
 これはまさしく、朱の盤の化け物です。
 侍は、
「うーん!」
と、目をまわして、気絶してしまいました。
 そしてしばらくしてから、はっと我にかえった侍は、無我夢中で野原をかけぬけていき、やがて見えてきた家に飛び込みました。
「おたのみもうします!」
 するとその家には、おかみさんが一人いるだけでした。
「まあまあ、いかがなされたのですか?」
「まずは水を一杯、飲ませていただきたい」
「はい、ただいまさしあげますよ」
 おかみさんは台所の水がめのひしゃくをとって、侍に渡しました。
 一気にそれを飲んだ侍は、おかみさんに話しました。
「実は、野原で道連れが出来たと思ったら、朱の盤の化け物だったのです。」
「おや、それは恐ろしいものに会いましたね。朱の盤に会うと、魂を抜かれるといいますから。・・・して、その朱の盤というのは、もしや、こんな顔ではありませんでしたか?」
 おかみさんは、ひょいっと顔をあげました。
 そこにあったのは、朱に染まった四角い顔に、耳までさけた口に、針金の様な髪の毛に、ひたいの角です。
「うーん!」
 侍は、またまた気絶してしまい、次の日になって我にかえりましたが、朱の盤に魂を抜かれたのか、三日後に死んでしまったということです。

おしまい

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