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2008年 9月5日の新作昔話

二羽のカモ

二羽のカモ
京都府の民話

 むかしむかし、京都に一人の男が住んでいました。
 男の家は貧乏でしたが、お嫁さんと二人で仲良く暮らしていました。
 ある日の事、お嫁さんに赤ちゃんが生まれました。
 ところがお嫁さんはお産のために体が弱っていたので、あまりお乳が出ません。
 そこでお嫁さんはお肉が食べたいと思い、夫に頼みました。
「わたし、お肉を食べたいのですけれど・・・」
 それを聞いて男は、
「それは、もっともだ。肉を食べて、はやく元気になってもらわないとな」
と、言いましたが、しかし男は貧乏でしたから、お肉を買うお金がありません。
 男はいろいろと考えたあげく、
「よし、そうだ。鳥を取りにいこう」
と、言いました。
 次の日、男は朝早く起きると、弓矢を持って家を出ました。
 そして、ミミドロ池にやって来ました。
 この池は、あまり人が来ないので、きっと水鳥がたくさんいると思ったのです。
 男は池まで来ると岸に生えた草の中に身をかくして、じっと水の上を見つめていました。
 あたりは、草の葉をゆする風の音ばかりです。
 そのうちに静かな水の面を波だたせて、一羽のカモが草むらのかげから泳いできました。
 続いてもう一羽がやってきて、二羽のカモは仲良くこちらに近づいてきます。
 それは、メスとオスのカモでした。
 男はそっと、弓に矢をつがえましたが、
(かわいそうに。仲良くならんでくるカモをうつなんて)
 男はふと、そんな気持ちになりました。
 しかし男は、また思いなおしました。
 お肉を食べたがっている、お嫁さんの事を思ったからです。
(仕方ない。カモよ、許しておくれ)
 矢は弓をはなれると、まっすぐにオスのカモにあたりました。
「それ、あたったぞ!」
 男は大急ぎで池に入ってえものをひろいあげると、すぐに家へ帰りました。
 男はさっそく、お嫁さんにカモの取れた事を話しました。
 そして、
「あすの朝は、カモを料理して食べような」
と、言うと、カモをさおにかけて寝ました。
 さて、その夜中の事です。
 男は、さおにかけたカモがバタバタと羽を動かしている音に目をさましました。
「おや? あのカモが、生きかえったのかな?」
 男が不思議に思いながら、あかりを持ってさおのところにいきました。
 すると昼に取ってきたカモは死んだままで、そのそばを一羽のカモが、バタバタと羽ばたいているではありませんか。
「あっ! メスのカモだ。ミミドロ池でオスとならんで泳いでいたメスガモに違いない。殺されたオスをしたって、あとをつけてきたのか」
 男はメスのカモを、じっと見つめました。
 カモは、あかりを持った人間がそばに立っているのに、少しも恐れる様子はなく、死んだオスのまわりを離れようとはしません。
 男はつい、ポロリと涙をこぼしました。
 すると、外の音に起き出したお嫁さんもやってきました。
 そして男の隣でじっとカモを見つめると、男に言いました。
「カモも人間も、相手を想う気持ちは一緒なのですね。ねえ、明日あのカモのお墓を作ってあげましょう」
「しかし、カモを食べないとお前の体は・・・」
「いいえ。わたしは病気ではありません。日がたてば、また元気になれますから」
 その朝、男はオスガモを持って、また池にやってきました。
 そして、ていねいにうずめてやると、小さなお墓を作ってやりました。
 さてそれからしばらくたつと、お嫁さんはすっかり元気になりました。
 そして赤ちゃんと三人で、しあわせに暮らしたという事です。

おしまい

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