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2008年 9月7日の新作昔話

娘ギツネの恩返し

娘ギツネの恩返し
山形県の民話

 むかしむかし、山形県のある村に、熊蔵(くまぞう)という気のやさしい男がいました。
 ある年の暮れの事です。
 町でお正月料理の魚や昆布を買って、雪の積もった道をとぼとぼもどってくると、林の中から美しい娘が飛び出してきて、
「わたしは、この林にすむキツネの娘です。母親が病気で死にそうなので、その魚を一匹、どうかめぐんでくださりませんか?」
と、いうのでした。
「それはお気の毒に」
 熊蔵は背負っていた荒巻き鮭を一匹、娘にやりました。
「ありがとうございます。このご恩は必ずお返しします。正月の五日の夕方に、またここへいらしてください」
 娘はそういって、林の中へ消えていきました。
 さて、約束の一月五日の夕方、熊蔵がキツネの娘と出会ったところへいくと、娘は美しい身なりで現れて、何度も頭をさげて熊蔵に母ギツネの病気がよくなったお礼をのべると、
「わたしは、ずっと人間の娘の姿でおりますから、三年間だけ、どこかのお店で働かせてください。わたしを売ったお金は、熊蔵さんに全部さしあげます」
と、いうのでした。
 しかし熊蔵は、
「いいや、魚一匹ぐらいで、そんな事をしてもらうわけにはいかない。恩返しはいいから、母のところへお帰りなさい」
と、娘の申し出をことわりましたが、
「いいえ。受けたご恩を返さなければ、私は母にしかられます。どうかお願いです。わたしをどこかのお店で・・・」
 何度も何度もそう言うので、熊蔵は娘を町の大きな料理屋へ連れていきました。
 するとお店の主人は、その娘の美しさにびっくりです。
 そこで十両というお金で、娘をやとってくれました。
 それからしばらくたったあるとき、その料理屋に遠い大阪から商人がやってきたのですが、美しい娘を一目見るなり、
「実は、大阪一の大金持ちの一人息子が大あばれをして親たちが困っておる。お前のような美しい娘がおれば、きっと気もおさまるだろう。どうか我々と一緒に、大阪へ来て欲しい」
と、いって、お店の主人に百二十両という大金を払って、娘を大阪へ連れていきました。
 大阪にいった娘は、家の人たちに、
「息子さんの病気を治してさしあげますから、二人だけにしてください」
と、頼んで、二人で蔵の中に入りました。
 すると娘が、息子をキッとにらみつけて、
「お前の正体はわかっているよ。さあ、いったいどこのキツネがついているんだい!」
と、いうと、息子はもじもじしながら、
「こっ、ここの庭にまつられている、稲荷です」
 おどおどした返事が、かえってきました。
「ふーん。しかし、家にまつられている神が、なぜその家の人たちを苦しめるんだい」
「はっ、はい。この家はケチで、供え物が少ないんです。それで頭にきて屋敷のニワトリを食ったら、家の人に煮え湯をかけられて殺されました。だから死神のキツネになって、息子にとりついて、死ぬまで苦しめてやることにしたのです」
「そうかい。じゃあ、わたしが家の主人に言って、お供え物をふやしてもらうから、もう悪さをするんじゃないよ」
「はっ、はい。お願いします」
 さっそく娘は、屋敷の主人にこの話をして、お供え物をふやしてもらいました。
 するととたんに、息子は元のやさしい青年にもどったのです。
 主人はたいそう喜んで、お礼に千両という大金をくれました。
 キツネの娘は主人が用意してくれた立派なかごにのって故郷に帰り、熊蔵にたくさんのお礼をしたそうです。

おしまい

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