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2008年 9月15日の新作昔話
知らぬが仏
群馬県の民話
むかしむかし、上野の国(こうずけのくに→群馬県)と武蔵の国(むさしのくに→埼玉県、東京都、神奈川県)のさかいに、不思議な街道がありました。
そこは人の往来する街道ですが、地面をふむと奇妙な響きがするのです。
「トン」
と、踏むと、
「ズーン!」
と、こもった響きが、地面からつきあがってくるのです。
ある日、村人たちがあれこれと相談して、
「よし、思いきって掘ってみよう」
と、いう事になったのです。
村人は大勢で、どんどん掘っていきました。
やがて、金物でも打つように、
クワーン!
と、音が響きました。
「それっ。ここだ、ここだ」
そして、一人の男が勢いよく掘り始めると、
ドドドーッ!
と、周りの土が崩れ落ちて、男は土と一緒に地の中へすいこまれるように落ちていったのです。
そして男の落ち込んだあとには、ぽかんと大きな穴が開いていました。
地上のみんなは、大きな穴の中をのぞいてみました。
「いったい、何じゃろ?」
「やつは、どうしたんじゃ?」
「暗くて、何もわからんぞ」
「でも何とかして、助けてやらにゃ」
みんなが相談していると、地面から何かが聞こえてきました。
「何じゃろう?」
みんなが耳をすますと、
「助けてくれーっ」
と、いっているではありませんか。
そこで、一人が大きな声でどなりました。
「おーい。今から、つなを下ろしてやるからな。しっかりつかまれよ!」
つなを下ろしてやると、手ごたえがありました。
「それっ、引き上げろ!」
よいしょ、よいしょ!
よいしょ、よいしょ!
やっとのことで、男を穴の中から引き上げました。
「おい、大丈夫か?」
「穴の中は、どんなじゃった?」
みんなが聞くと、男は首をかしげて、
「どうも、わからん。奇妙な穴で、土がないんじゃ」
「なに? 穴の中に土がないのか?」
「ああ。ただ、金みたいな、石みたいなもんで、カンカンに固い物があるんじゃ」
「ふーむ。して、穴は広いのか?」
「まっ暗で何も見えんが、どうやら広いようだ」
と、いうので、みんなはいっそう不思議がって、
「まあいい、掘ってみればわかることだ」
みんなは穴のまわりを、どんどんどんどん掘っていきました。
すると大きな大きな仏さまが、あおむけに寝た姿で、土の中にうめられていたのです。
さっきの男は、その仏さまのおへその穴から、お腹の中へ落ちたというわけです。
「これは、どえらいものが出てきたな。どうすればいい?」
みんなはさっそく庄屋の家に集まって、どうしたらよいか話しあいました。
いろんな意見が出ましたが、最後には、
「こんな物をうっかり掘り出したら、役人へ届けないとなるまい」
「そんな事をしてみろ、いろんな調べや手伝いやらで、わしらの仕事が出来んわい」
「そうなれば、村中が大迷惑じゃ」
「えーい。いっその事、元のように埋めてしまおう」
「そうじゃ、それが一番じゃ」
と、いうことになりました。
そこで仏さまのおへその穴には厚い板をあてて、仏さまの上にどんどん土をかぶせて、もとのように埋めてしまいました。
いまでもその仏さまは、地面の中にあると言われています。
そしてことわざの『知らぬが仏』は、ここから生まれた言葉だとも言われています。
おしまい
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