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2008年 9月21日の新作昔話
犬が寒がらない理由
岡山県の民話
むかしむかしの大むかし、火なし村という、火のない村がありました。
ところがこの火なし村の南の方の山に火を使っている村があって、そこでは火が消えないよう、一日中たき火をしていました。
たき火のまわりには火を取られないよう、見張りの男が何人もいて、よその村の人を近づけません。
もし火を取りにきたら、すぐに捕まえて殺してしまうのです。
さて、火なし村に、とても親思いの娘がいました。
年を取ったお父さんやお母さんに、なんとかしてあたたかい物を食べさせてやりたいと思い、村の人の止めるのも聞かずに、犬を連れて南の方の山へ向かいました。
うわさ通り山の上の空き地には、赤々と火が燃えていて、そのまわりには何人もの見張りの男が立っています。
娘は岩の後ろに隠れて、しばらく様子を見ていました。
そのうちに、
「ああ、腹が減った。めしだ、めしだ」
と、言って、見張りの男たちが近くの小屋に入っていきました。
(今だわ!)
娘は火のついた木の枝を二、三本つかんで、駆け出しました。
そしてようやく山の途中まできた時、後ろから男たちの声が聞こえてきました。
「だれかが火のついた枝を盗んだぞ! 捕まえて殺してしまえ!」
娘は急ぎましたが、追っ手の声はどんどん近づいてきます。
(もうだめわ。このままでは捕まってしまう)
その時、一緒に走っていた犬が娘さんの顔を見てワンとほえ、火のついた枝をくわえさせろと言わんばかりに口を開けました。
娘は火のついた枝を一本、犬の口にくわえさせました。
「お願い、これを父母のところへ届けてね」
でも犬は、娘に早く逃げろと言うように首をふり、そのまま後戻りをして山へのぼっていくではありませんか。
「ありがとう」
娘はお礼を言うと、のこりの枝を持ったまま、山道をかけおりていきました。
やがて見張りの男たちは、火のついた枝をくわえている犬を見つけました。
「なんだ、火を盗んだのは犬か。しかし犬とはいえ、火を盗むのは許せん!」
男たちは、犬をなぐり殺してしまいました。
そんな事とは知らない娘は、走りに走ってやっと村へ着く事が出来ました。
「これが、火というものか」
「ありがたい、ありがたい。これからは、わしらの村でも火を使えるぞ」
火なし村の人たちは大喜びでたき火を始め、その火で食べ物を煮たり焼いたりしました。
さて次の日、娘が山道へもどってみると、そこには殺されて冷たくなっている犬が転がっていました。
「ごめんね、ごめんね」
娘はその犬を抱きかかえると、村へもどってきました。
村の人たちは、娘の身代わりになってくれた犬を見て、手を合わせました。
さてそれを、神さまが空の上から見ていました。
「犬よ、お前の行いは立派であったぞ。これからは二度と冷たい思いをしないよう、お前たちの体をあたたかくしてやろう」
それから犬は、いつも体がポカポカしていて、どんな寒い日でも平気だという事です。
おしまい
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