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2008年 9月29日の新作昔話

孝行滝(こうこうだき)

孝行滝(こうこうだき)
長崎県の民話

 むかしむかし、山王山(さんのうざん)のふもとに、猟師の父親と、とても親思いの息子が住んでいました。
 ある冬の日、いつものように狩りに出かけた父親は、獲物を求めて山々を歩き回っていました。
 ところがどうしたことか、その日は一匹の獲物も見当たりません。
 父親はがっかりして、そばの岩に腰かけたところ、
 カサカサ
と、木の葉をふむような音に聞こえてきます。
 音の方へふり向くと、見た事もないようなまっ白いシカが、木々をくぐりぬけて向こうに走っていくではありませんか。
 父親は夢中で弓矢を取り、シカのあとを追いました。
 ところがどうしたことか、滝のそばまでやってきた父親は運悪くコケの生えた岩に足をすべらせて、そのまま滝つぼの中に落ちていったのです。
 その夜、いくら待っても帰ってこない父親の身を案じながら、息子は一人、いろりのそばでうとうとしていました。
 すると夢の中に、白い着物を着た一人の老人が現れて、
「父を迎えに行くのじゃ。お前の父は山王山の滝つぼに落ちて、すでに死んでおる」
と、言って、すうっと消えてしまったのです。
 飛び起きた息子は、急いで山王山へと向かいました。
 すると、どうでしょう。
 あの老人の言った通り、父親は滝つぼのそばで、もう冷たくなっているではありませんか。
「父上・・・」
 あまりの事に息子は、ただその場に立ちつくしていました。
 やがて気を取りもどした息子は、神さまにお願いして父の命を呼び戻そうと、滝つぼめがけて走って行きました。
 そうして着物をぬぐと、凍りつくように冷たい滝の水にうたれながら、
「どうぞ、父をよみがえらせたまえ!」
と、一心不乱に祈りつづけたのです。
 さて、どれくらいたったでしょう。
 身を切るような滝の冷たさに息子の意識が薄れかけたころ、ふと父の方を見ると、いくらか頬に赤味がさしていました。
 息子は父のそばにかけよると、懸命にその体をさすりながら、父の名前を呼び続けました。
 すると、固く閉ざされていた父のまぶたが少しづつ開かれて、父親は「ふーっ」と息を吹き返したのです。
 そしていく日かたつと、父親はすっかり元通りの元気な体になりました。
 こんな事があってから親子は狩りをやめて、神に感謝をしながら毎日を過ごすようになりました。
 また父親が落ちたこの滝は、いつの間にか『孝行滝』と呼ばれるようになり、今でも清らかな水を流し続けているのです。

おしまい

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