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2008年 10月17日の新作昔話
鳥追いの森
鹿児島県の民話
むかしむかし、川内(せんだい)に、日暮らし長者という大変なお金持ちが住んでいました。
この長者には、それは美しい奥方と二人の子どもがいて、姉はお北(きた)、弟は花若丸(はなわかまる)という名前です。
さて、この長者の家には左近充(さこんじゅう)という男がいましたが、どういうわけか奥方をたいそう憎んで、主人に奥方の悪口をいうのです。
それが何度も何度も、いかにも本当らしく言うので、長者もだんだん本気にしてしまい、とうとう奥方を実家に返してしまいました。
それからまもなく、長者は左近充の世話で新しい妻を迎えたのですが、今度のお母さんは意地の悪い人で、お北と花若丸をいつもいじめていたのです。
あるとき長者は、仕事で長く京に上ることになりました。
ところがその間に左近充は、この継母(ままはは)とぐるになって、長者の家も財産も、そっくり自分たちのものにしてしまったのです。
かわいそうにそれからというもの、お北と花若丸へのいじめは前よりもいっそうひどくなったのです。
朝から晩まで休みなく働かされて、秋になってイネが実るようになると、まま母と左近充は二人に一日中、鳥の群れを追いはらわせました。
お北と花若丸は小さな舟にのせられ、鐘やたいこをたたいては川を上ったり下ったりして鳥を追うのです。
幼い二人にとっては、とてもつらい仕事でした。
ただ唯一の頼みのお父さんは、なかなか戻ってきません。
二人はいつも、
「母さまが、いてくれたら」
「父さま、早う帰ってきて」
と、泣きながら、次の秋もその次の秋も、烏を追って暮らしたのです。
ですが継母と左近充の毎日のいじめと、いつまでたっても帰ってこない父に二人の子どもは絶望して、
「母さま、父さま、もう疲れました。ごめんなさい」
と、とうとうある日、二人はしっかりと手をつないだまま、川に身を投げて死んでしまったのです。
あわれに思った村人たちは、二人の亡骸(なきがら)を川の近くに手厚く葬ってやりました。
さて、それからまもなく、長者は長い旅から帰ってきたのです。
しかし、やっと帰ったと思ったら二人の子どもはおらず、家と財産は左近充と妻の物になっています。
「この有様はなんじゃ! なぜ、こんなことに!」
「長者さま。実は・・・」
村人からすべてを聞いた長者は、怒りに怒って、左近充と妻を刀で斬り殺しました。
そして、二人の子どもが葬られた川のほとりに腰をおろして、
「すまんかった。金儲けに夢中で、帰るのが遅くなったばかりに。・・・お北。・・・花若丸。いまから父も、お前たちのそばへ行くぞ」
自分も自らの命を絶とうとしたその時、長者の耳に、二人の子どもたちの声が聞こえてきたのです。
「父さま。お帰りなさい。わたしたちは、木に生まれ変わったの。どうか、わたしたちの木を育てて」
その声に目を見開いた長者は、川のほとりに二本のタブの木が生えているのを見つけました。
「そうか。お前たちは木になったのか。よし、父が必ず、お前たちを立派に育ててやるぞ」
やがて二本の小さなタブの木はどんどん大きくなり、二本が四本に、四本は八本にと、しだいに林となり、ついには大きな森になったのです。
村人たちは死んだ二人の子どもの事を思い出して、この森を『鳥追いの森』と呼び、小さな観音さまをたててやったそうです。
この森は太平洋戦争のときに爆弾を落とされて、すっかり焼けてしまいましたが、観音さまは今でもひっそりと残っているそうです。
おしまい
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