きょうの日本民話
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2008年 10月29日の新作昔話

蛸薬師(たこやくし)

蛸薬師(たこやくし)
京都府の民話

 むかしむかし、とても親思いの一人のお坊さんがいました。
 そのお坊さんの名は善光(ぜんこう)といい、京の町にある小さなお寺で、年老いた母親と二人きりで細々と暮らしていましたが、その母子の仲の良さといったら、町中で評判になるほどでした。
 でも不幸なことに、善光の母親が突然に重い病にかかってしまい、必死の看病にもかかわらず、日々病状が悪化していくばかりでした。
 医者も手のほどこしようがなく、とうとう善光の母親は死を待つだけになりました。
 それでも善光は、哀れな母親のために出来る事を一心に考え、この世の名残りに母親の食べたいものをでも食べさせてやりたいと思いたちました。
 そして母親の具合いのいい時を見計らって尋ねると、母親は消え入りそうな声で、すまなそうに、
「蛸(たこ)が食べたい」
と、言うのです。
 お寺では、肉とか魚といった生き物は、口に出来ない決まりになっていました。
 それでも善光は、ためらうことなく母親に食べさせる蛸を求めて出かけました。
 もしもだれかに見つかって罪に問われる事があれば、喜んでこの身を捧げようと決心していました。
 やっとの思いで蛸を手に入れたのですが、寺の門前まで帰り着いたとき、善光さんは運悪く寺の人間に出会ってしまったのです。
「おい善光、お前さっき、漁師となにやら話していたが、その手に持っている包みの中身は何だ?」
(しまった! 見つかってしまった!)
 善光は、その場から逃げ出そうと思いましたが、
(いやいや、だれかに見つかって罪を問われても、喜んでこの身を捧げると誓ったばかり)
と、善光は、手に持った包みを開いて、中に入っている蛸を見せました。
 すると、それを見た寺の者は、
「なんだ、ただの経本(きょうほん)か」
と、言って、その場を立ち去ったのです。
(経本?)
 不思議に思った善光は、包みの中にある物を見てびっくり。
 蛸は立派な経本に姿を変えていたのです。
 そして寺の者が完全に立ち去ると、経本は再び蛸に姿を戻しました。
 こうして無事に蛸を口にすることが出来た母親は、蛸のおかげか、どんどん元気を取り戻しました。
 善光はこれも全て薬師如来(やくしにょらい)のおかげと、ますます信心に励み、寺の名も蛸薬師(たこやくし)と呼ぶことにしたのです。

おしまい

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