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2008年 11月17日の新作昔話

ものぐさ太郎

ものぐさ太郎
長野県の民話

 むかしむかし、ものぐさ太郎という、大変ななまけ者がいました。
 あるとき、情け深い人が太郎にもちを五つやりました。
 四つまで食べてしまって、残りの一つがコロリと道ばたに転がったのです。
 それを見た太郎は、
「取りに行くのが面倒だ、人が来るまで待っていよう」
と、とうとう三日の間待ちつづけたのです。
 そして四日目の朝のこと、このあたりを治める地頭(じとう)の行列が通りかかりました。
「のう、すまんがそこのもちを取って下され」
 太郎はさっそく声をかけましたが、地頭は知らん顔です。
 これには太郎も腹が立ったとみえて、今度は大声で言いました。
「もちも拾ってくれんようななまけ者が、よく地頭なんぞやっておられる。世の中でなまけ者は俺一人かと思っておったが、とんだまちげえだ」
 これを聞いた地頭、はたと馬を止めて、
「ほう、お前がものぐさ太郎か。お前、一体どうやって暮らしておる」
と、話しかけました。
「ふん、人さまが飯をくれるまでは、何日でも待っているさ」
 太郎のこの態度に地頭は大笑いして、さっそくこんなおふれを出しました。
《ものぐさ太郎に毎日飯と酒を与えよ。もしこれを守らぬ者は領内にとどめてはおかぬ》
 これには村の人も驚きましたが、このいいつけを守って、やがて三年の月日が過ぎたある年の春、この里に都から、ながふが割り当てられました。
 ながふというのは、都にある国司の屋敷へ仕えに来いという命令です。
 けれども誰一人、行きたがる者はいません。
 それで、やっかい者の太郎を行かせることにしました。
 みんなは、
「都には、きれいな女がいるぞ」
「うめえもんが、たくさん食えるぞ」
と、口からでまかせを言って、どうにか太郎を説得したのです。
 こうして太郎は都にやって来ましたが、どういうわけか、太郎は今までのものぐさとは違って、とてもまじめに働いたのです。
 ある日の事、太郎は用事で清水寺(きよみずでら)に出かけました。
 そこへ、十七、八才のきれいな娘が現れて、それを見た太郎はその娘にひと目ぼれしました。
 でも娘は汚い太郎を怖がって、逃げようとしたのですが、太郎は娘をはなしません。
 そこで娘は、
♪から竹を、杖につきたるものなれば
♪ふしそひがたき、人をみるかな
と、いう歌をよんだのです。
 すると太郎も、一体どこで習ったのか、すかさず
♪よろづ世の竹の、よごとにそふふしのなどから竹に、
♪ふしなかるべき
と、よみ返したので、娘もびっくりです。
 これはただの男ではないと、さっそく太郎を屋敷へつれ帰って、七日の間風呂に入れてみがきあげました。
 すると太郎は、とてもりりしい男になったのです。
 こうしてものぐさ太郎は、思わぬことからその娘を妻にめとったのです。
 そして故郷の信濃(しなの)にもどると大きな館を建てて、世話になった村人たちにも、それは親切にして、一生しあわせに暮らしたということです。

おしまい

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