きょうの日本民話
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2008年 12月29日の新作昔話
屋敷を救ったカエル
東京都の民話
むかしむかし、江戸の町は『火事が名物』といわれるほど、いつもあちこちで火事がおこっていました。
ある年の冬におきた火事は強い北風にあおられて、百二十をこえる町が焼けてしまったそうです。
けれど、この大火でも無事だった家があります。
麻布(あざぶ)という町の山崎(やまざき)という侍の屋敷は、まわりの家々が全部焼けてしまったのに、どこも焼けずにすみました。
それは屋敷の庭の大きな池にすむ、カエルたちのおかげだというのです。
ある夜、このカエルたちは屋敷の夜まわりにやってきた使用人を、みんなで池の中へ引きずりこんで殺してしまいました。
この話を聞いた屋敷の主人が、
「けしからん。明日になったら、池のカエルなど一匹残らず殺して、日干しにしてしまえ」
と、怒ったところ、その夜、白い衣をまとった小さな太った老人が主人の夢枕に立ちました。
そして、こんな事をいったのです。
「われは、古くからこの池にすんでおるカエルの精である。池に引き込んでわれらが殺したあの男は、これまで何も悪さをしていないカエルの子を踏み殺したりして、どれだけの命をうばったかしれない。にっくきかたきであるから、仕返しをしたまでじゃ。明日カエル狩りをするそうだが、もしわれらの命をすくってくれたなら、火事のときはわれらカエルたちが力をあわせて、このお屋敷を守ってやろう」
夢枕に立ったカエルの精は、そういって消えていきました。
翌朝、目をさました屋敷の主は、池のカエル狩りをやめることにしたのです。
それからしばらくたって、あの大火事がおこったのです。
屋敷はちょうど、風下にあたっていました。
火の粉がたくさんとんできて、火の手から逃れる方法はありません。
火はとなりの屋敷に燃え移ってきて、赤い炎が山崎の家へもむかってきました。
そのときです。
何百、何千というカエルたちが池の中から現れると、お腹がぱんぱんになるまで水を吸いこんで、屋敷にむかっていっせいに水をふきつけたのです。
カエルたちは何度も何度も池の水を吸い、繰返し繰返し、屋敷にむかって水をふきつけました。
すると真っ白な霧が屋敷をつつんで、火は燃え移らずにすんだのです。
このとき、広い池の水はほとんどなくなって、底が見えていたそうです。
カエルたちの活躍にすっかり感心した屋敷の者たちは、それからは池のカエルを大切にしました。
そのためにカエルの数はますますふえつづけて、屋敷はいつしか『麻布のカエル屋敷』とよばれて、江戸の名所のひとつになったという事です。
おしまい
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