きょうの新作昔話
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2009年 5月4日の新作昔話
ホウと幽霊
中国の昔話
むかしむかし、中国のある村に、ホウという男がいました。
ホウは漁師で、近くの湖で魚を取って暮らしていました。
ある夏の事、ひと仕事を終えたホウが、のんびりと家で昼寝をしていると、いきなり、
「お前の命は、今夜限りだぞ!」
と、いう恐ろしい声がしました。
びっくりしたホウは、あわてて飛び起きると部屋の中を見回しましたが、部屋には誰もいません。
「おかしいなあ? 夢でも見ていたかな?」
すると今度は耳元で、さっきの声がはっきりと響いてきました。
「お前の命は、今夜限りだ! わかったか!」
「ひぇーーっ! 夢じゃないぞ!」
ホウはブルブルと震えながら、勇気を出して声の主にたずねました。
「いま言ったのは、だれだ!?」
すると、声の主が答えました。
「おれか? おれは幽霊だ。夜になったら、お前に取り付いて、お前を幽霊の仲間に引きずり込んでやるからな」
それを聞いたホウは、思わずその場にひれ伏すと、見えない幽霊に手を合わせて言いました。
「お願いです。どうか命だけは、お助けください」
「・・・そうか。では助けてやってもよいが、そのかわり、おれに飯を食わせろ。おれは腹がへっているんだ」
「はっ、はい。命が助かるなら、ごちそうぐらい、おやすいご用です」
ホウはさっそく、大切にしていたニワトリやブタを殺して、おいしい料理を山ほど作りました。
それから庭にござをしいて、出来たごちそうをずらりと並べました。
もちろん、とっておきのお酒も出しました。
「さあ、どうぞ。お召し上がりください」
すると不思議な事に、ござの上には誰もいないのに、茶わんや皿や箸が一人で動いて、ごちそうがどんどん減って行くのです。
ホウは目の前に動いてきたさかずきに、お酒をつぎながら考えました。
(やれやれ。幽霊のやつ、この調子ならこれからも現れて、ごちそうをねだるにちがいないぞ。財産を食いつぶされないうちに、幽霊を退治してしまおう)
そしてホウは、ごちそうのおかわりを取りに行くふりをして家の中に入ると、ふところに刀を隠して戻って来ました。
そしてござの上に、ごちそうの皿を置くなり、
「この幽霊めっ!」
と、見えない幽霊めがけて、切りつけました。
とたんに、ふわふわと飛んでいた茶わんや皿や箸がござの上に落ちて、あたりは、しーんと静かになりました。
(・・・やっ、やっつけたのか?)
ホウが安心したその時、周りからいっせいに、
「うわーん」
「うわーん」
「うわーん」
と、いう、悲しそうな泣き声がわき上がりました。
声の主は、何十人という、姿のない幽霊たちです。
「死んでしまった」
「かわいそうに。葬式を出してやろう」
「葬式をするには、棺おけがいるぞ」
「棺おけは、どこから手に入れたらいいのだろう?」
幽霊たちは口々に、こんなことを言い合っていました。
ところがそのうち、ホウの耳に、とんでもない言葉が聞こえてきたのです。
「この家の主は立派な木の船を持っている。あれを壊して、棺おけにしよう」
「そうだ、それがいい」
船を壊すと聞いて、ホウはびっくりです。
「なんだって! とんでもない! あの船は、おれの大切な宝物だぞ!」
そこでホウは、急いで湖にある船小屋に行きました。
船小屋にはホウの船がしまってあるのですが、船小屋の扉がバタンとひとりでに開くと、ホウの見ている前で、船はズルズルと小屋の外に引き出されていきました。
船の回りには、大勢の幽霊の気配があります。
「おーい。頼むからやめてくれ! その船を持っていかれたら、明日から魚が取れなくなってしまう!」
ホウが、いくら頼んでも、幽霊たちはやめようとはしません。
船はふわりと空中に浮くと、湖からホウの家の庭へと運ばれて来ました。
そして地面にドシンと置かれると、家の中からオノやノコギリや金づちがふわふわと飛んできて、船を棺おけに作り変えていったのです。
でも不思議な事に、くぎを打つ音だけは、一度も聞こえません。
やがて、立派な棺おけが出来上がりました。
すると、ホウの周りで、
「完成だー!」
「やった、やったー!」
「これで葬式が出来るぞー!」
と、いう、幽霊たちの喜びの声が上がりました。
そして幽霊たちは、ホウに殺された幽霊を棺おけの中におさめると、やがて棺おけは、ゆっくり、ゆっくりと、空に上りはじめました。
そしてどんどん浮かんでいった棺おけは、だんだんと小さくなって、雲の中に消えてしまいました。
「おーい。おれの船を返してくれー! お願いだから返してくれー!」
ホウは空に向かって、声をかぎりに叫びました。
すると雲の中から、さっき消えたばかりの棺おけが、まっすぐ地面に向かって落ちてきたのです。
「やっ。船が戻ってきたぞ!」
ホウが喜んだのもつかの間、棺おけは、
ヒューーーッ、ガシャーン!
と、すごい勢いで地面に叩きつけられて、粉々に砕け散ったのです。
そしてそのとたんに、
「わっはっはっは」
「わっはっはっは」
「わっはっはっは」
と、いう、大勢の幽霊たちの笑い声が、空一面に響き渡りました。
「わははははは。お前なんかに、おれさまが殺せるものか! 素直にごちそうを出していれば、そのまま消えてやろうと思ったのに、余計なことをするから、大事な船を壊してやったんだ!」
幽霊たちは一日中、空のかなたで笑い続けていたそうです。
おしまい
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