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2009年 11月4日の新作昔話

弁天島とアブ

弁天島とアブ
石川県の民話

 むかしむかし、柳(やなぎ)という男の人が、釣り友だちの若者を連れて海へ釣りに行きました。
「柳さん、今日の潮なら、このあたりでいいでしょう」
 若者はとても釣りに詳しいので、柳は頷くと釣り糸をたらしました。
 すると糸が海に入った途端、サバが食いついてくるのです。
 柳は調子に乗ってどんどんサバを釣りあげて、とうとう小舟いっぱい釣りました。
「ああ、こんな面白い釣りは初めてだ」
 ふと見ると、釣り友だちの若者はグーグーと寝ています。
 柳は起こしてやろうと、顔を近づけました。
 すると、
「おや?」
 何と若者の鼻の穴から三匹のアブが、ブーン、ブーン、ブーンと飛び出して来たのです。
 そしてそのアブはまた若者の鼻に入り、すぐにブーン、ブーン、ブーンと飛び出して来ます。
(はて? こんな海の上に、どうしてアブがいるのだろう? おまけに鼻の穴を出たり入ったりして、変だなあ)
 柳が首をかしげると、若者が目を覚ましました。
「ああ、失礼しました。いつの間にか眠ってしまいました。しかし、変な夢を見たものです」
「変な夢? どんな夢かね?」
 柳が尋ねると、若者は笑いながら言いました。
「はい。村の丸堂から、三体の仏さまがアブになって飛んで来られたのです」
「ほう、三匹のアブねえ」
 柳は少し考えると、若者に言いました。
「なあ、その夢を私に売ってくれまいか? 代金として、今日のサバは全部お前にあげよう」
「夢をですか? そりゃ、構いませんけど」
 若者はサバと交換で、自分の見た夢を売ることにしました。

 さて、夢を買った柳は浜辺に戻ると、そのまま村の丸堂と呼ばれているお堂へ走って行きました。
 そして、ゆっくりお堂のまわりを歩きました。
「どこだ? アブは、どこだ? ・・・おおっ、あれだな」
 お堂の壁の小さな割れ目から、三匹のアブが出たり入ったりしていました。
(よしよし、夢の通りだ)
 柳は頭にかぶっていた笠で、三匹のアブをパッと捕まえました。
 そして大急ぎで屋敷に帰って座敷の戸を閉めると、アブをはなしてやろうと笠をのけました。
「あっ!」
 柳は、息をのみました。
 出てきたのはアブではなく、輝くほど美しい三体の仏の像だったのです。
 それは、阿弥陀(あみだ)、弁天(べんてん)、毘沙門(びしゃもんてん)でした。
 柳は、美しい三体の御仏像を全部自分の家に置くのは申しわけないと思い、阿弥陀は村の勝安寺(しょうあんじ)というお寺に納める事にしました。
 弁天は、小さな島に納めました。
 それからその島は、弁天島と呼ばれるようになりました。
 そしてもう一つの毘沙門の像は、今も柳さんの屋敷の宝物として祭ってあるそうです。

おしまい

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