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2009年 11月11日の新作昔話

寝ているだけの仕事

寝ているだけの仕事
和歌山県の民話

 むかしむかし、あるところに、働くのが大嫌いな男がいました。
 毎日毎日、男は家で寝てばかりいたので、ついにお金もお米もなくなってしまいました。
(何もかも、なくなってしまったな。まあ、働かないといけないのはわかるが、汗水たらして働くなんて、まっぴらごめんだ。・・・ああ、どこかに、寝ているだけの仕事はないかなあ)
 男が、そんな都合の良い仕事を探しに外を歩いていると、向こうから見せ物小屋の親方がやってきました。
 この見せ物小屋の親方は、珍しい動物を見せる商売をしているのです。
「なあ親方、どこかに、寝ているだけで金もご飯ももらえる仕事はないか?」
 とんでもない相談ですが、それを聞いた親方は手を叩いて言いました。
「ある、ある、あるぞ! 実は今、そんな仕事をしてくれる人を探していたところだ」
「へえ。そいつはありがたい。親方、ぜひともわしに、その仕事をさせてくれ」
「いいとも、仕事場までついて来い」
 男は喜んで、親方の後について行きました。

 親方は町はずれで、獅子(しし→ライオン)やトラの見せ物小屋を開いていました。
「へえ、これが見せ物小屋か。・・・ところで、おれはどんな事をすればいいんだ?」
「なあに、簡単さ。ただ、このおりの中で寝ているだけだよ」
「何だって?! 獅子やトラと一緒にか?!」
 びっくりする男に、親方は声をひそめて言いました。
「心配するな。実はな、少し前に見せ物のトラが死んでしまって、困っていたところなんだ。そのトラの皮をはいであるから、お前さんはそれを着て、おりの中で寝ていてくれればいい」
「何だ、トラの身代わりか」
「そう言う事だ。ただ寝ているだけで、時々エサをもらい、おまけにお金までもらえるんだ。いい話だろう」
「確かに。なまけ者のおれにぴったりの仕事だな」
 そんなわけで、親方はさっそく男にトラの皮を着せて、おりの中へと入れました。

 トラの身代わりは確かに楽な仕事で、あっという間に見世物小屋が終わる最後の日となりました。
(ああ、楽な仕事だったな)
 男が寝ながらそう思っていると、集まって来た人たちに親方が言いました。
「さあ、入った、入った。今日でもうお終いだよ。さて、そこで最後に、トラと獅子を一つのおりに入れて、けんかをさせて見せようではないか」
 そう言って親方は、隣のおりに入れていたライオンを、トラの毛皮を着た男のいるおりに連れて来たのです。
 さあ、トラの毛皮を着た男はびっくりです。
 男は逃げ出そうとしましたが、恐怖に足がすくんで動けません。
(わあわあ、もう駄目だ!)
 男は思わず、目をつむりました。
 するとライオンが男のそばへ来て、小さな声で言いました。
「心配するな。わしも人間じゃ。獅子の皮を着て、身代わりの仕事をしているんだ」
 すると男は安心して、自分がトラになっている事も忘れて立ち上がると、
「いやあ、助かった。なんだ、あんたも偽物だったのか」
と、言ってしまい、二匹の猛獣がインチキだった事がばれてしまったのです。

おしまい

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