きょうの日本民話
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2010年 1月18日の新作昔話
三味線の木
秋田県の民話
むかしむかし、あるところに、とても上手な三味線ひきのおじいさんがいました。
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
と、ひきながらあっちの村、こっちの村へとまわり、みんなからお金をもらって暮らしていました。
ある冬の事、いつものように三味線をひきながら村はずれの道までくると、雪が降ってきました。
(ああ、これは大変だ)
雪はだんだん激しくなって、ひどいふぶきになりました。
(どこかに、家でも)
まわり見てみましたが、どこにも家がありません。
おじいさんが三味線をかかえながらとぼとぼ歩いていると、目の前に大きな木が立っていました。
ふと見ると、みきのところに人が入れるぐらいの穴が開いています。
(こいつは、ありがたい)
おじいさんは、さっそくその穴の中へ入りました。
穴の中は思ったよりあたたかくて、いい気持ちです。
おじいさんはくたびれていたので、だんだんねむくなってきました。
(いかんいかん! こんなところでねむったら、死んでしまうぞ)
おじいさんは三味線をかかえると、眠気覚ましにひきはじめました。
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
ところが雪は三味線の音に合わせるように、ますます激しく降ってきます。
おじいさんは三味線をひくのをやめて、雪が降るのをぼんやりとながめていました。
もう、ねむくてねむくてたまりません。
それでもしばらく目を開けていましたが、そのうちにぐっすりとねむりこんでしまいました。
何日も何日もねむり続けているうちに、木はどんどん大きくなって、おじいさんを中に入れたまま、穴をふさいでしまったのです。
おじいさんはそれっきり、もう二度と目を覚ますことはありませんでした。
さて、やがて冬が終わり、春がやってきました。
「三味線ひきのおじいさんは、どうしたのかな?」
「そういえば、近頃はさっぱり姿を見せなくなったな」
どの村でも、おじいさんのうわさをしていましたが、そのおじいさんがどこからきて、どこへ帰っていくのか、だれも知らなかったのです。
ある日の事、近くの村人がこの木の下を通りかかりました。
すると、あたたかい春の風がふいてきて、木の葉っぱがさわさわとゆれました。
その時です。
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
どこからともなく、三味線の音が聞こえてきました。
(あっ、三味線ひきのおじいさんがきたぞ)
村の人は振り返りましたが、だれもいません。
(おかしいな?)
するとまた風がふいてきて、木の葉っぱがさわさわとゆれ、木の中から
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
と、いう三味線の音が聞こえました。
(木だ。この木から聞こえるぞ)
そんな事があってから、村人たちはこの木を『三味線の木』と呼ぶようになりました。
この不思議な木は、風で木の葉っぱがさわさわとゆれるたびに、
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
と、なりつづけましたが、やがて秋になり、木の葉っぱが全て散り終わると、それからはならなくなったと言う事です。
おしまい
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