きょうの日本民話
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2010年 1月27日の新作昔話
おりゅう柳
兵庫県の民話
むかしむかし、但馬の国(たじまのくに→兵庫県北部)の高柳というところに、大きな柳の木がありました。
そびえ立つその高さは四十間(約72メートル)、幹のまわりは二丈三尺(約6.9メートル)という大きさで、村の年寄たちの話では、五百年前からそこにあるということでした。
また秋になると、この柳の落葉は、遠く一里(いちり→約3.9キロメートル)も離れた九鹿村(くろくむら)まで舞い下りて行くのです。
さて、その九鹿村に、おりゅうという美しい娘がいました。
おりゅうは高柳の造り酒屋に女中として奉行(ほうこう)しており、おりゅうはひまを見つけては、柳の木に寄りかかったり、しゃがんで緑の葉を見あげていたりと、柳の木の下で過ごしていました。
それを見た村人たちが、
「おりゅうは、柳の木の嫁さんだ」
と、いうほどです。
また村人たちは、こんな歌も歌いました。
♪夕焼け小焼けの紅かねつけて
♪九鹿娘は、どこ行きやる
♪風もないのに、柳がゆれる
♪娘恋しと、夕空に
♪柳の下には、殿ごがお待ち
♪おりゅう、いとしと、抱いてねた
♪娘ぬれてる、柳の露に
♪髪のほつれも、しっぽりと
やがておりゅうは、可愛らしい男の子を生みました。
するとだれもが、
「あの赤ん坊は、柳の木の精の子にちがいない」
と、思っていました。
さて、その子が五歳になったある日、京都で三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)のお堂を建てるため、柳の大木を棟木(むなぎ)にするから、きり出すようにという命令が下りました。
それを知ったおりゅうは、悲しくて毎日泣いてばかりいました。
やがて柳の木に、きこりたちがオノを入れる日がやって来ました。
カンコン、カンコン・・・。
さて次の日、きこりの棟梁(とうりょう)が柳の木を見ると、昨日オノを入れたはずなのに、切り口がふさがっているのです。
「あれ? おかしい、たしかにオノを入れたはずだが」
棟梁は首をかしげながらも、きこりたちにもう一度、最初からオノを入れる様に命じました。
きこりたちは一生懸命、柳の木を切り倒そうとオノを振りました。
カンコン、カンコン・・・。
そして深く切り口を入れて、その日は帰りました。
ところが次の日になると、また切り口がふさがっているではありませんか。
「こんな馬鹿な!」
棟梁は、不思議でたまりません。
こんな事が何日も続いたある日、棟梁はこんな夢を見ました。
棟梁のもとへ、ヒョロヒョロとやせた、へくそかずら(→アカネ科の蔓性多年草)がやって来て、こう言うのです。
「あの柳の木は、木の殿さまです。だから夜中になると、家来のヒノキや松が集まって、切り口におがくずをつめているのです。そうすると、おがくずは切り口の中で固まって、もとのようになるのです。私も殿さまを助けようと、おがくず拾いに来たのですが、ヒノキや松に、『お前は木の仲間じゃない。帰れ!』と言われましてね。それが、もうくやしくてくやしくて、それで言いつけに来たのです」
棟梁は、そこで目を覚しました。
そして次の日には、切り口からこぼれたおがくずを全部燃やして帰りました。
その次の日、棟梁がやってくると、切り口はそのまま残っていました。
「よし、これで切り倒せるぞ」
棟梁は毎日それを繰り返し、ようやく柳の木を切り倒す事が出来たのです。
すると不思議な事に、突然、おりゅうが死んでしまったのです。
さて、やっと柳の木を切り倒したのですが、今度はどうしても、柳の木が動きません。
馬に引かせても、力自慢の大人が何十人で引いても、丸太ん棒になった柳の木はびくともしないのです。
「そうだ。おりゅうの子に頼もう」
棟梁の命令で、村人たちが、おりゅうの子どもを呼びに行きました。
おりゅうの子どもは、お母さんを亡くしてしょんぼりしていましたが、村人たちに頼まれると、すぐに走って来ました。
そして柳の木をなでながら、
「ここには、もうお母さんはいないよ。ぼくと一緒に、都へ行こう」
と、ささやいて、つなを引きました。
そのとたん、丸太ん棒になった柳の木はゴロゴロと動き出して、そのまま、おりゅうの子どもと一緒に京都まで行ったそうです。
おしまい
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