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2010年 3月3日の新作昔話

お侍をだましたキツネ

お侍をだましたキツネ
岩手県の民話

 むかしむかし、あるところに、一人のお侍が住んでいました。
 ある日の事、お侍が川へ魚釣りに出かけました。
 とてもよく魚が釣れたので、夕方にはびくの中が魚でいっぱいです。
「大漁、大漁。さて、帰るとするか」
 お侍が、びくを持って立ちあがると、急にあたりが明るくなってきて、西の方からお日さまが出てきたのです。
「西から日が出るなんて、おかしいぞ。さては、キツネの仕業だな」
 そこでお侍は、大声で言いました。
「やい、キツネ! だまされないぞ。夜になって日が出るなんて、おかしいじゃないか!」
 そのとたん、お日さまは見えなくなって、お月さまが出てきました。
 お侍が歩きはじめると、どこからともなく、にぎやかなおはやしが聞こえてきました。
(はて、どこかでお祭りでもあるのかな?)
 でも、この村のお祭りは、もうとっくにすんでいます。
(さては、これもキツネの仕業だな)
 そこで、お侍は言いました。
「なんだ、なんだ、その元気のないおはやしは。もっと元気よくやらんか!」
 すると、おはやしがぴたりとやみました。
「おい、キツネよ。どうせなら、もっとおっかないものに化けてみろ!」
 そう言って、しばらく待ってみましたが、何もおこりません。
(さすがのキツネも、わしがちっとも驚かないので、困っているのだな)
 お侍は、すっかり安心して歩き出しました。
 それからしばらく行くと、お月さまが、ぼんやりとかすんできて、深い霧が出てきました。
(これは、雨でもふってくるのかな?)
 そう思いながら、ふと前を見ると、緑色の着物を着た美しい娘さんが立っています。
(こいつは、キツネか? ・・・いやいや、さっきの言葉を聞いたなら、もっとおっかないものに化けるはず)
 お侍は、娘さんのそばに行きました。
 よく見ると、となりの家の娘さんです。
「どうしてこんなところにいるのです? さあ、一緒に帰りましょう」
 お侍は、娘さんと一緒に歩き出しました。
(おや? ・・・待てよ、たしかこの娘は)
 ところが、よく考えてみると、となりの娘さんは去年死んだはずです。
 それに気づいたお侍は、思わず娘さんを見ました。
 すると娘さんの足はなくて、両手を前にだらりと下げて、ゆっくりすべるように近づいてきます。
「ゆ、ゆ、幽霊だー!」
 お侍はバタリと倒れて、それっきり気を失ってしまいました。
 しばらくたって、はっと気がつくと、お侍は山の中に倒れていて、魚が入ったびくがなくなっていたという事です。

おしまい

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