2010年 12月31日の新作昔話
お百姓とタマゴ
ブルガリアの昔話
むかしむかし、あるお百姓さんの家のニワトリたちが、全部で百個のタマゴを産みました。
「おおっ、これはすごいぞ」
お百姓さんは喜んでタマゴをカゴに入れると、そのカゴを長い天秤棒の先にぶらさげて、肩に担いで市場に出かけました。
「もうすぐ市場だ。市場についたら、タマゴを一つ一レフで売ろう。
一つ一レフで売ったら、全部で百レフになるじゃないか。
いや、待てよ。
二レフで売れば二百レフだ。
いやいや、これだけ立派なタマゴなら、三レフでも売れるぞ。
よし、三レフで売って、全部で三百レフだ。
三百レフあれば、メスの子ブタが買えるじゃないか。
メスの子ブタはドンドン食べて、ドンドン大きくなって、やがて子ブタを産むぞ。
子ブタは二十匹くらい? いやいや、三十匹くらいは産んでくれるだろう。
その三十匹の子ブタが大きくなって、また子ブタを三十匹産んでくれれば、えーと、九十匹、・・・いやいや、九百匹だ。
すごい、すごいぞ。
それだけブタがいれば、好きな物が何でも買えるぞ。
まずは、わしの着る服を買おう。
それも、どこかの国の王子が着るような、金のふちどりがある赤い服がいいな。
そして次は馬だ。
黒い毛並みの、美しい馬にしよう。
自分が赤い服を着て、黒い毛並みの美しい馬に乗れば、きっと村中の娘がわしを見てウットリするぞ。
そしたらわしは、村一番の美人と結婚するんだ。
広い庭付きの大きな屋敷に住んで、わしが仕事から帰ると、美人の妻がおいしい料理を作って待っているんだ。
・・・あっ、それに子どもだ。
子どもは、・・・そうだな、男の子でかしこい息子にしよう。
その息子はわしが馬に乗って帰って来ると、
『お父さん、おかえりなさい』
と、目を輝かせながら屋敷を飛び出して来る。
そこでわしは馬を降りて、こう両手を広げて息子を迎えるんだ。
『ただいま、可愛い息子よ。今帰ったよ』」
と、思わず本当に両手を広げたとたん、
グシャリ!
お百姓さんは、天秤棒ごと、大事なタマゴを全部地面に落としてしまったのです。
「あっ、しまった・・・」
子ブタも、赤い服も、黒いウマも、美しい奥さんも、かしこい息子も、タマゴと一緒に粉々に壊れてしまいました。
おしまい
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